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同じ国なのに「別の国」――イギリスの世代間分断

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以下は、2026年1月に総選挙があったとしたら、という前提でイギリスの議席地図を2枚並べたもので、一方は「65歳以上の男性だけが投票した場合」、もう一方は「若年男性だけが投票した場合」の推計結果を示していた。前者はReform UK(右派ポピュリスト)の濃い青がほぼ全土を覆い尽くし、後者は緑の党(Green Party)がイングランドの大半を制圧する。同じ国の地図のはずなのに、まるで別の惑星である。 図1:65歳以上の男性のみが投票した場合の推計議席地図(仮想総選挙) 図2:若年女性のみが投票した場合の推計議席地図(仮想総選挙) 定義 若年女性=18〜24歳の女性。 出所:YouGov “Voting Intention (MRP/megapoll)” 調査(GB成人、サンプル数 17,230、フィールドワーク 2026年1月9〜14日)。 参照資料(YouGov Survey Results PDF): VotingIntention_Merge_MRP_Jan26_w.pdf この議席図は何をシミュレーションしていたのか まず前提を整理する。この種の地図は、MRP(multilevel regression and post-stratification)という統計手法を使って作られることが多い。大規模な世論調査データから年齢・性別・学歴・居住地域などの属性別に投票先を推計し、各選挙区の人口構成に当てはめて議席を弾き出す手法だ。YouGovが17,000人超のサンプルで2026年初頭の属性別投票意向を詳細に分析しているし、Electoral CalculusのMRP調査(2025年12月実施、サンプル5,500人超)は選挙区ごとの議席予測まで公開している。MRPは過去3回の総選挙で結果を的中させた実績がある手法で、データとしての信頼性は高い。 ただし、ポイントは、あの画像が「次の選挙の予測」ではないことだ。有権者を特定の属性に限定した反実仮想(counterfactual)――つまり「もしこの集団だけが投票したら」という思考実験である。現実には全年齢・全性別の有権者が一緒に投票するから、あの単色の地図がそのまま現れることはない。 だ...

日米戦略的投資イニシアティブ「第1号案件」が意味すること

2026年2月10日、赤沢亮正経済産業相が閣議後の会見で、日米戦略的投資イニシアティブの「第1号案件」を近く発表できる可能性に言及した。翌日から訪米し、ラトニック商務長官と組成を協議するという。候補として報じられているのは、データセンター向けガス火力発電、港湾整備、人工ダイヤモンド製造などだ。 このニュースは、一見すると日米間の投資協力がまた一歩進んだ、という穏当な話に見える。だが、その背後にある資金の流れと契約構造を丁寧にたどると、かなり複雑な風景が浮かび上がる。この枠組みは、通常の「企業の海外進出」とはまるで異なる論理で動いている。それを理解するには、2025年夏まで時計を巻き戻す必要がある。 関税と投資の取引——枠組みはどう生まれたか 2025年4月、トランプ政権が日本を含む各国に相互関税を課したことで、日米間の通商交渉は一気に緊迫した。石破政権(当時)は赤沢氏を交渉の前面に立て、同年7月22日にトランプ大統領と枠組み合意に達する。内容を端的に言えば、日本が米国に5,500億ドル(約85兆円)を投資する代わりに、日本からの輸入品に課される関税を15%に抑える、という交換だった。 ここで素朴な疑問が浮かぶ。5,500億ドルとは、一体どれほどの規模なのか。米国側の統計によれば、2024年時点で日本の対米直接投資残高は8,192億ドルと国別で1位である。つまり日本はすでに世界最大の対米投資国だ。にもかかわらず、さらに5,500億ドルの「新規資本」を積み増せとベッセント財務長官は釘を刺している。野村総合研究所の木内登英氏が指摘するように、米国が認める戦略的産業分野(半導体、医薬品、エネルギー、重要鉱物など)に限った投資残高は2024年で2,452億ドルにとどまる。この分野で5,500億ドルをトランプ政権の任期中(2029年1月まで)に達成するのは、率直に言ってかなりの難題だ。 では、この数字は単なる政治的な「見栄え」なのか。それとも、実際に金融市場を動かす実体を持つのか。答えは、2025年9月4日に署名されたMOU(了解覚書)のなかにある。 MOUが定めた「お金の流れ方」 MOUの中身を読むと、この枠組みが通常の投資促進策とはまったく異なる仕組みであることがわかる。ジェトロの報告によれば、骨格は次のようなものだ。 投資案件は、米商務長官...

外為特会は財源の打ち出の小槌なのか

2026年2月8日の衆院選で自民党が316議席という戦後最多を獲得し、高市早苗首相の政策推進力は劇的に増した。選挙戦の目玉だった「食料品の消費税を2年間ゼロにする」という公約は、いよいよ実行段階に入る。だが、ここで疑問がある。年間5兆円とされる税収の穴を、いったい何で埋めるのか。 その候補として浮上しているのが、外国為替資金特別会計――通称「外為特会」の剰余金だ。片山さつき財務大臣はテレビ番組で、外為特会の剰余金を財源として「検討の俎上に載せうる」と述べた。高市首相自身も選挙応援で「外為特会の運用、いまホクホク状態」と発言している。では、この「ホクホク」は本当に減税の財源になるのだろうか。 そもそも外為特会とは何か まず基本を押さえておきたい。外為特会は、政府が為替介入に備えて保有する外貨資産を管理するための「専用の財布」である。2025年末時点の外貨準備高は約1兆3,697億ドル。円換算すれば約200兆円規模にのぼり、年間の国家予算(一般会計約122兆円)をはるかに上回る巨大な資産プールだ。 この外貨資産の大半は米国債などの外貨建て債券で運用されている。一方、ドルを買うための円資金は、政府短期証券(いわゆる為券)を発行して市場から調達している。つまり外為特会は、円で借りてドルで運用する構造――いわば国家規模の「円キャリートレード」を行っている。 ここから毎年生まれるのが「剰余金」だ。外貨資産の受取利息(歳入)から、為券の支払利息(歳出)を差し引いた残りがそれにあたる。日米金利差が大きく円安が進むほど、この剰余金は膨らむ。 過去最大の5.4兆円――だが、すでに使い道がある 2024年度(2025年3月期)の外為特会の剰余金は5兆3,603億円。財務省が決算概要の公表を始めた2008年度以降で過去最大を記録した。内外金利差の拡大と円安が、運用収益を押し上げた結果だ。 ところが、この5.4兆円がまるごと「余っている」わけではない。そのうち3兆2,007億円は2025年度当初予算の一般会計にすでに繰り入れられ、約1兆円は防衛力強化の財源に充てられることが決まっている。さらに約1.4兆円が外国為替資金への組入れ(いわゆる「3割規定」に基づく留保分)として特会内に残された。残りの約7,878億円が当初見込みからの上振れ分で、これが「今後使途を検...

中国は米国債から静かに降りている

ある国が、世界最大の債券市場から少しずつ身を引いている。それも10年以上の歳月をかけて、だ。 中国の米国債保有額は、2013年のピーク時に約1兆3,167億ドルに達していた。それが2025年11月時点では約6,826億ドルにまで縮小している。米財務省のTIC(Treasury International Capital)データが示すこの数字は、およそ6,300億ドル――ピーク時からほぼ半減という、かなりの規模の変化である。 では、この巨額の資金はどこへ向かったのか。「米国債を売ったなら、代わりに欧州の国債を買っているのだろう」と考えるのは自然な発想かもしれない。だが、現実はそう単純ではないようだ。 本稿では、公開データと合理的な推論をもとに、中国の外貨準備をめぐる変化の全体像を眺めてみたい。その変化が米国、欧州、そして日本にとって何を意味し得るのかについても、考えてみたいと思う。 数字が語ること、語らないこと まず確認しておきたいのは、「中国が米国債の保有を減らしている」という事実そのものは、かなり堅い情報だということだ。米財務省のTICデータは、主要な外国保有者の米国債残高を定期的に公表しており、中国(本土)名義の保有額が長期的な下降トレンドにあることは、複数のデータソース(Trading Economics、CEIC Dataなど)で一貫して確認できる。 ただし、注意点がある。中国はベルギーやルクセンブルクにあるEuroclearなどのカストディアン(保管機関)を経由して米国債を保有していることがあり、TIC上の「中国(Mainland)」という数字だけでは、実際の保有額を完全には捉えきれない可能性がある。Financial Timesなどはこの点を以前から指摘してきた。 とはいえ、カストディ経由分を考慮に入れたとしても、全体の方向性が「減少」であること自体を覆すほどの差にはならないだろう、というのが大方の見方である。つまり、方向性としての米国債離れは、観測上かなり確からしい。 問題は、その次だ。減った分はどこへ行ったのか。 欧州債は「受け皿」になっているのか 直感的には、ドル建て資産を減らすなら、次に大きな通貨圏であるユーロ建て資産を増やすのが合理的に見える。だが、「中国が米国債の減少分を同程度の規模でユーロ圏国...

あなたは最近、政治的に「反対側」にいる人と、落ち着いて議論できただろうか?

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ひとつ、問いかけから始めたい。あなたは最近、政治的に「反対側」にいる人と、落ち着いて議論できただろうか? もしそれが難しいと感じるなら、あなただけではない。Pew Research Centerの2025年3月の調査によれば、米国の成人の8割が「共和党支持者と民主党支持者は、政策だけでなく基本的な事実認識(basic facts)ですら合意できない」と回答している。政策の優先順位が違うのではない。何が事実かという出発点で、すれ違っている。 これは米国だけの話ではない。では、いま世界で何が起きているのか。 ヨーテボリ大学V-Dem研究所の2025年報告書「25 Years of Autocratization」は、世界の民主主義水準が人口加重平均で1985年にまで後退したと記す。世界人口の72%、約58億人が権威主義体制下にあり、民主主義国(88)を権威主義国(91)が20年以上ぶりに上回った。 注目すべきは、この傾向が途上国だけの問題ではないことだ。北米・西欧の民主主義水準も1983年レベルに低下している。V-Demの創設者リンドバーグ教授は米国について「近代史上最も速い権威主義化のエピソード」と評し、「このペースが続けば夏前に民主主義国と分類できなくなる」と2025年3月に述べた。Freedom HouseやEconomist Intelligence Unitも、指標は異なるが同様の結論に達している。 分断は「感情」の問題になっている なぜ、事実の共有すらできなくなったのか。政治学で「感情的分極化」と呼ばれる現象が鍵を握る。相手陣営の人間を「道徳的に劣った存在」とみなすようになる現象だ。Pewの2022年調査では、共和党支持者の72%、民主党支持者の63%が相手を「不道徳」と回答した。2016年にはそれぞれ47%と35%だった。 Gallupの2025年データでは「穏健派」と自認する米国人が過去最低の34%に低下。ソーシャルメディアもこれを加速させている。Xは共和党支持者が多数を占め、ThreadsやBlueskyは民主党支持者が集まる。PNAS誌の研究は、スマートフォン・ソーシャルメディアの普及と分極化の加速がほぼ一致していることを示した。 2025年9月のPew調査では米国人の85%が「政治的動機による暴力が増加している」...

離れていく日本──米欧との格差は「選択」の結果なのか

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1990年、日本の1人あたりGDP(名目、ドル建て)は米国を上回っていた。G7の中でもトップクラス。「世界で最も豊かな国のひとつ」と呼ばれた時代である。 あれから35年。IMF World Economic Outlook(2025年10月版)の推計によれば、2025年の1人あたりGDP(名目、ドル建て)は、米国が約89,600ドル、英国が約56,660ドル。そして日本は約34,710ドルである。日本は米国の4割弱、英国の6割強という水準にまで相対的地位を下げた。 もちろん、ドル建ての名目GDPは為替レートの影響を強く受ける。近年の歴史的な円安は、日本の数字を実態以上に低く見せている面がある。では、生活実感に近い購買力平価(PPP)で補正すれば、日本の位置づけは改善するだろうか。 残念ながら、答えはNOだ。OECDの2025年報告によれば、PPPベースの労働生産性(1時間あたりGDP)で見ても、日本はOECD加盟38カ国中28位(2024年)。G7では1970年以来一貫して最下位である。米国の時間あたり生産性は約98ドル、日本は約60ドル。その差は為替を調整しても埋まらない。つまり、「円安のせい」だけでは説明がつかない構造的な問題がある。 なぜ、こうなったのか。そして、ここから巻き返すことはできるのだろうか。 「成長か、社会保障か」──実はそう単純ではない 日本の停滞を語るとき、しばしば「社会保障にカネを使いすぎたから成長できなかった」という議論が聞かれる。直感的にはわかりやすい。だが、データを見ると話はそう単純ではない。 まず規模感を確認しよう。日本の社会保障給付費はGDPの約25%を占める(国立社会保障・人口問題研究所、2021年度、ILO基準:138.7兆円、対GDP比25.20%)。これは確かに大きい。しかし、先進国では社会保障・医療関連支出が財政の中核を占めるのは一般的である。米国でも社会保障(Social Security)と公的医療(Medicare)などの義務的支出が歳出の中心であり、英国でも社会保障(年金等)と医療(NHS)が政府支出の主要項目を構成している。 OECDの国際比較(SOCX)でみれば、日本の公的社会支出(対GDP比)はフランスやイタリアより低い水準にあり、先進国の中で突出して多いわけではない...

英政治状況の整理ー緑の党とは

2026年2月、英国の政治地図が変わりつつある。PollCheckの移動平均(2月7日時点)では、Reform UKが30.0%で首位、労働党19.7%、保守党18.6%、そして緑の党が13.9%でつける。わずか2年前の総選挙で得票率6.7%・議席4だった政党が、なぜここまで膨張したのか。 理由は明快だ。労働党への失望である。Ipsosによれば、スターマー首相の就任14か月後の支持率は過去50年の首相で最低を記録した。「変化」を約束した政権が何も変えていない――2026年1月のIpsos調査で有権者の約4分の3が「事態は悪化している」と答え、「改善している」はわずか8%だった。 この空白に飛び込んだのが2025年9月就任のザック・ポランスキー党首だ。就任時約68,500人の党員は2026年1月末に19万人を突破し、自民党・保守党の双方を抜いた。ただしSurvationの1月調査では、一般有権者の44%が党首の評価を「わからない」と回答しており、認知度にはまだ伸びしろがある。同調査で「将来緑の党に投票する可能性がある」層は現在の支持率より22ポイント高く、潜在的天井はReform UK(+10)や労働党(+12)より大きい。 「新興政党」ではない ここで一つ、よくある誤解を片づけておきたい。緑の党は新興政党ではない。半世紀以上の歴史を持つ老舗の小政党だ。2026年の今、彼らが「新しい勢力」に見えるのは、長い間「泡沫政党(Fringe Party)」扱いされてきた党が主要政党へとブレイクスルーしたため、有権者の目に新鮮に映っているにすぎない。 年表を確認しよう。源流は1973年に「PEOPLE」の名で結成された政党にさかのぼる。1975年に「Ecology Party(エコロジー党)」、1985年に現在の「Green Party」へと改称。1990年にスコットランド緑の党・北アイルランド緑の党と友好的に分離し、現在の「イングランド・ウェールズ緑の党」となった。つまり組織としての源流は、現行の自由民主党(1988年結成)よりも古い。驚く人がいるかもしれないが、事実だ。 では、なぜ「新しい」と間違われるのか。三つの理由がある。 第一に、国政での存在感がごく最近まで皆無に近かったことだ。2010年にキャロライン・ルーカス氏がブライ...

「所得税減税より週休3日制のほうが嬉しい」という感覚

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「正直なところ、所得税減税より週休3日制のほうが嬉しい」——こう感じたことはないだろうか。 金銭的に考えれば、手取りが増える減税のほうが得である。自由に使えるお金が増えるのだから。しかし、それでもなお「もう1日休みがほしい」と思う感覚は、経済学的にみて決しておかしなものではない。本稿では、この直感がどこまで根拠を持つのか——そしてどこに限界があるのかを検討する。 お金と幸福の関係——単純ではない 労働経済学の基本的な枠組みでは、人の満足度は「消費」と「余暇」の両方から生まれる。減税は消費を増やし、週休3日制は余暇を増やす。どちらがより満足度を高めるかは、それぞれの「あと1単位増えたときの喜び」、つまり限界効用の大きさで決まる。 では、所得が増えても幸福感は頭打ちになるのか。この問いに対する学術的な答えは、実はこの10年ほどで大きく揺れてきた。 Kahneman & Deaton(2010)の有名な研究は、米国で年収約75,000ドルを超えると日々の感情的幸福が改善しなくなることを示し、広く引用された。しかしKillingsworth(2021)はより大規模なデータで、感情的幸福も含めて所得とともに上昇し続けることを示した。さらにKahneman & Killingsworth(2023)の共同再分析では、大多数の人では所得と幸福は正の関係を保ち続けるが、もともと不幸を感じている層に限って飽和が見られるという、より精緻な結論に至っている。 つまり、「お金で幸福は買えない」は過度な単純化であり、「お金と幸福の関係は所得階層や個人特性によって異なる」というのが現在のコンセンサスに近い。所得の限界効用が一律に逓減するとは言えないのだ。 ただし、ここで注目すべきは消費の中身の変化だ。先進国では家計支出に占める「モノ」の割合が下がり、「体験やサービス」の割合が上がっている(OECD National Accounts, 2023)。日本では20〜30代で「欲しいものがない」と答える人が2000年の32%から2023年には54%に増えた(内閣府消費動向調査)。人々が求める豊かさの形が、物質から旅行・学び・健康・人間関係といった——お金だけでなく 時間を必要とする ものへと移行している傾向は確かにある。 時間不足感の...

異世界転生ものブームの考察──「やり直し」の社会心理

人はときどき考える。もし人生をもう一度やり直せるなら、と。しかも前回の記憶と知識を抱えたまま、という条件つきで。その申し出があったとして、あなたは引き受けるだろうか。それとも現在に留まるだろうか。 いま日本では、異世界転生というジャンルが流行している。そこで描かれるのは単なる再挑戦ではない。自分だけが覚えている未来、自分だけが知っている法則、自分だけが行使できる能力。世界の側が遅れてついてくるという、強い情報非対称が設定されている。 書店では転生系が棚を占め、アニメでは映像化が続き、Web小説では数えきれない新しい人生が日ごとに生成されている。そこで起きるのは、小さな知識一つで世界が微かに傾き、秩序が書き換えられる体験である。誰かの想像の内部で、何度も人生が起動し、何度も世界が更新されていく。 これは単なる流行よりも、ひとつの徴候のように映る。日常のどこかに言語化されない余白があり、そこから滲み出した渇望がある。現実の人生で何を諦め、代わりにどの種類の満足を「せめて物語の中だけでも」と欲しているのか。 本稿ではこの現象を、経済、心理、社会といった角度から照らしてみる。異世界転生というジャンルを見ることで、現代日本人の輪郭がかすかに浮かび上がるかもしれない。 転生のコスト──「やり直し」は本当に楽なのか やり直しという魅力 異世界転生の魅力は何だろうか。それは一言で言えば「やり直し」だ。 今の人生に満足していない人にとって、「人生をやり直せる」という設定は、それだけで圧倒的な魅力を持つ。 そして、異世界転生は単なるやり直しではない。チート能力、特別なスキル、前世の知識──これらがセットで付与される。しかも多くの場合、圧倒的に有利な時代背景や文明レベルといった外部環境までもが用意される。なぜか。それは、やり直しを確実に成功させるためだ。今度こそ失敗しないように、今度こそ優位に立てるように。やり直しを「確実なもの」にするための装置として、これらの要素は設計されている。 やり直しは本当に「楽」なのか 問いたい。チート的な能力や知識を備えた状態でのやり直しは、本当に「楽」なのだろうか。 表面上は、これほど有利な条件もないように見える。しかし無視出来ない点が...

ドル円200円の世界を考える

2025年末、ドル円相場は150円台後半にある。主要金融機関の2026年予測もおおむね140~155円の範囲に収まっており、内閣府の経済見通しも1ドル=155.2円を前提に置いている。200円という水準は、現状の延長線上にはまずない。 では、なぜ200円を考えるのか。 それは、為替レートという一つの変数を極端に動かしてみることで、日本経済がどこに脆さを抱え、どこに緩衝材を持っているのかが見えてくるからだ。「もしそうなったら何が起きるか」を辿ることで、現在地を俯瞰したい──そういう試みである。 まず、見かけのGDPに何が起きるか 名目GDPが円建てで変わらなくても、ドル換算すれば為替レート次第で数字は大きく変わる。当たり前の話だが、国際比較の場面ではこの「見かけ」が意味を持つ。 内閣府は2026年度の名目GDPを691.9兆円と見込んでいる。前提為替レートの155.2円で割ると、約4.46兆ドル。これはIMF(世界経済見通し、2025年10月版)が予測する2026年の日本のドル建てGDPとほぼ整合する。この水準だと、日本は米国(約31.8兆ドル)、中国(約20.7兆ドル)、ドイツ(約4.6兆ドル)、インド(約4.5兆ドル)に次ぐ世界5位あたりに位置する。4位のインドとはほぼ横並びだが、すでに逆転含みの関係にある。 ここで為替を200円に置き換えてみる。同じ691.9兆円を200で割ると、約3.46兆ドル。1兆ドル、つまり約25%の目減りである。 3.46兆ドルとはどのあたりか。IMFの2026年予測では、英国が約4.2兆ドル、フランスが約3.6兆ドルとされている。200円換算の日本はフランスのすぐ下に入り、世界7位前後まで後退する計算になる。インドとの差は1兆ドル以上に開く。 ただし、ここには重要な注意がある。この計算は「日本だけ為替レートを変えて、他国はIMF前提のまま」という部分均衡にすぎない。現実には、ドル円が200円に動くほどの事態が起きれば、他国の経済や為替にも何らかの影響が及ぶ。あくまで「機械的に置き換えたらこうなる」という目安として読んでほしい。 GDP順位が落ちると、何が変わるのか 「ドル換算GDPの順位なんて、国民生活には関係ない」──そう感じる人は多いだろう。実際、そのとおりだ。順位が一つ下がったからといって...

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