担保は本当にそこにあるのか──MFS破綻が問いかけるもの

2026年2月25日、ロンドンの不動産担保融資会社Market Financial Solutions(MFS)が破綻した。翌日からバークレイズが5%安、米ジェフリーズは一時10%安。「英住宅ローン会社が破綻」という見出しだけ見ると住宅市場の問題に見えるが、核心はそこではない。地味だけれど根深い──「担保」という仕組みそのものが壊れた、という事案だ。

何が起きたのか

MFSはメイフェアに拠点を置き、不動産を担保にしたつなぎ融資や賃貸投資向けローンを専門にしていた。融資残高は約24億ポンド。資金の出し手にはバークレイズ、アポロ傘下のAtlas SP、サンタンデール、ジェフリーズ、ウェルズ・ファーゴが並ぶ。

関連会社が裁判所に持ち込んだ申し立てで指摘されたのが「二重担保(double pledging)」──同じ不動産を複数の貸し手に別々に担保として差し入れていた疑いだ。判事は不正の疑惑を「非常に深刻」と表現し、即座に管財手続きを認めた。債権者側の試算では、12億ポンドの債務に対して担保不足額は最大9.3億ポンド。80%以上が宙に浮いている可能性がある。

株が売られた理由

バークレイズのエクスポージャーは約6億ポンド、アポロ約4億ポンド、ジェフリーズ約1億ポンド。いずれも自己資本で吸収可能な規模に見える。ではなぜここまで売られたのか。

理由は「損失額」よりも「不確実性」にある。担保が二重に差し入れられていたなら、誰が第一順位の権利者かわからない。回収率は法的整理の帰趨次第で大幅に変わる。投資家は計算できないリスクに直面すると、最悪を前提に動く。

そしてもうひとつ。市場が恐れているのは「これだけで済むのか」という問いだ。

6カ月で3件目

時計を半年巻き戻す。2025年9月、米サブプライム自動車ローンのTricolorが破綻。同じローン債権を複数の銀行に担保として差し入れていた。ほぼ同時期に自動車部品のFirst Brandsも破綻。サプライチェーン・ファイナンスの枠組みで売掛債権を二重に担保にしていた疑いがあり、報告上のレバレッジ5倍に対し実質20倍近かったとの指摘もある。

そして今度はMFS。業種も国も違うが、構造は同じだ。担保資産を一意に管理する仕組みの不在を突いて、同じ資産を複数の貸し手に差し入れる。ちなみにジェフリーズはFirst Brandsでも損失を被っていた。JPモルガンのダイモンCEOが2025年秋に残した言葉がある。「ゴキブリを1匹見かけたら、もっといる」。では、いま何匹いるのか。

3.5兆ドルの見えにくさ

プライベート・クレジット市場は世界全体で約3.5兆ドルに達し、2029年には5兆ドルとの見通しもある。銀行規制の強化で銀行が引き受けにくくなった融資をノンバンクが肩代わりする構造自体は、経済にとって有益な面もある。

問題は「見えにくさ」だ。プライベート・クレジットの多くは非公開で、担保の実態も外部から検証しにくい。BISやFSBはノンバンクと伝統的銀行の相互接続性が増していることを繰り返し警告してきた。バーゼル規制で銀行の自己資本は厚くなった。だがリスクが消えたのではなく、規制の境界の外側に移動しただけではないのか。

MFSはその構図を見せてくれた。MFS自身は銀行と同等の健全性規制を受けていない。だがバークレイズやウェルズ・ファーゴが巨額のファンディングラインを提供していた。銀行はリスクを移転したつもりでも、資金供給の経路を通じてリスクは跳ね返ってくる。

何を見ればいいのか

これは金融システム全体を揺るがす危機の入り口なのか。現時点では、関係する金融機関はいずれも十分な自己資本を持っており、2008年とは出発点が違う。

ただ、注視すべきは直接損失の額よりも「増幅装置」の方だ。大手銀行がノンバンクへの融資を一斉に引き揚げれば、健全なノンバンクも資金繰りに窮し、不動産担保の投げ売りが担保価値を連鎖的に毀損する可能性がある。そしてなにより、担保の一意性を横断的に検証するインフラは、まだ整備途上だ。Tricolor破綻を受けて検証サービスが立ち上がったのは2025年10月のこと。つい最近まで業界は「借り手の自己申告」に依存していた。

イングランド銀行のベイリー総裁は2025年秋、「これらが特異な事例なのか、炭鉱のカナリアなのか、それが大きな問題だ」と述べた。MFSの破綻はこの問いをもう一度テーブルに載せた。見るべき数字は3つ。管財手続きから出てくる担保不足の確定額。同種ノンバンクへの資金供給条件がどこまできつくなるか。そして、4件目が出てくるかどうか。

金融危機は事後的にはいつも「兆候はあった」と語られる。渦中では、特異事例と構造問題の境界線は見えにくい。わかっているのは、担保という仕組みの信頼性が、いま改めて試されているということ。


※本稿は2026年2月27日時点の公開情報に基づく。法的手続きは進行中であり、関係者への不正の認定は確定していない。

コメント

このブログの人気の投稿

仏国債格下げで目が覚めたブレグジット島~こんにちは現実、格下げされたのはロンドナーのボーナスでした~

「通貨介入」は円安を止めれるのか?~数字上の制約~

Brexit.xlsm ~「最終セルの直書き」からの循環参照・計算不能~

ロンドン4時、ロンフィク、WMR~為替市場の根幹なのに理解されていないフィキシングの実態~

ファンダメンタルズから乖離という言い訳