イラン戦争が1年続けば、米国GDPはどこまで下押しされるのか

戦争が長期化すれば経済は悪化する。直感的にはそう考えやすい。しかし、米国のGDPに限って見ると、話はもう少し複雑である。

原油高は家計と企業を圧迫する一方、軍事支出は政府需要としてGDPを押し上げる。米国は世界有数の産油国でもあり、エネルギー価格の上昇は消費者には負担となるが、産油地域やエネルギー企業には追い風となる。

そのため、戦争による経済損失とGDP統計の動きは一致しない。生活が苦しくなり、民間投資が減っていても、軍需生産の増加によってGDP成長率だけは維持されることがある。

重要なのは戦争の期間より、海峡と原油価格である

「イラン戦争が1年続く」という条件だけでは、米国GDPへの影響は決まらない。同じ1年間でも、限定的な空爆が断続的に続く場合と、ホルムズ海峡が実質的に閉鎖される場合とでは、経済的な意味が大きく異なる。

米エネルギー情報局によれば、2024年にホルムズ海峡を通過した石油は日量約2,000万バレルで、世界の石油消費量のおよそ2割に相当した。一方、サウジアラビアとアラブ首長国連邦のパイプラインを使って追加的に迂回できる量は日量約260万バレルにとどまる。

米国がペルシャ湾岸諸国から直接輸入する原油は、米国内の石油消費量の約2%にすぎない。それでも米国は影響を免れない。原油は世界市場で取引されるため、海峡を通る石油がアジア向けであっても、供給不足は米国のガソリン、航空運賃、物流、化学製品、農産物の価格に波及するからである。

したがって、見るべき変数は「戦争が続いているか」ではなく、海峡の実効輸送量、原油価格の年間平均、湾岸の生産設備への被害である。

原油高は米国経済をどれだけ押し下げるのか

現在の米国は、1970年代より原油ショックに強い。シェール革命を経て石油製品の純輸出国となり、GDPに対する石油支出の比率も大幅に低下した。

ダラス連銀の2026年の分析では、世界の石油供給が15%減少した場合でも、現在の米国の実質GDP成長率に対する下押しは年率約0.3ポイントと推定されている。同規模の供給減が1980年に起きていれば、下押しは5.6ポイントに達したとの結果である。

ただし、この数字だけで影響が小さいと判断するのも危うい。シカゴ連銀は、原油価格が50%上昇した場合、米国GDPへの影響を標準的な条件でマイナス0.17%、需要調整が大きくなる条件では最大マイナス0.83%と試算している。

また、イェール大学のBudget Labは、原油価格が1バレル当たり約25ドル上昇し、その状態が一四半期続けば、1年後の実質GDPが約0.3%低下するとの推計を示した。推計方法による幅は大きく、原油10ドル当たり何ポイントという一つの係数だけで長期戦を評価するのは難しい。

軍事費はGDPを下げるのか、上げるのか

短期のGDPに限れば、追加軍事支出は通常プラスに働く。GDPは消費、投資、政府支出、純輸出の合計であり、国内で生産された兵器、燃料、修理サービス、軍人や関連要員の活動は政府需要に含まれる。

国防支出の乗数について、RANDが整理した実証研究では、おおむね0.6から1.2の範囲にある。国防費が1ドル増えるとGDPが0.6ドルから1.2ドル増えるという意味である。ただし、比較的新しい研究ほど乗数は1以下に寄る傾向がある。政府需要は増えても、金利や人件費の上昇を通じて民間投資が押し出されるためである。

戦費の総額が、そのまま当年のGDPになるわけでもない。既存在庫から発射されたミサイルは、発射時点の新規生産ではない。航空機や基地の再建には時間がかかり、議会が認めた予算と当年中の納入額も一致しない。海外企業への支払いは米国GDPに含まれない。

仮に1年間の追加戦費が2,500億ドルでも、当年中に国内で実行される割合を50~70%、実効乗数を0.6~0.9と置けば、GDP押し上げは約750億~1,580億ドルとなる。米国GDP比では約0.2~0.5%である。

三つのシナリオで考える

第一は、戦闘が続いても海峡の通航が段階的に回復し、原油の年間平均価格が85~95ドル程度に収まる場合である。原油、金利、貿易、消費者心理を通じた下押しはGDP比0.3~0.6%程度、軍事需要の押し上げは0.2~0.4%程度と考えられる。純下押しは0.1~0.3%程度が中心となる。

第二は、海峡の輸送能力が長期間制限され、原油が110~130ドルで推移する場合である。エネルギー価格だけでなく、肥料、食品、海運、保険料の上昇が強まる。FRBの利下げ延期も重なれば、軍事需要を差し引いた純下押しは0.5~0.9%程度まで拡大し得る。

第三は、海峡がほぼ閉鎖され、湾岸諸国の油田、製油所、港湾、パイプラインにも攻撃が広がる場合である。原油が150~200ドルに達し、世界的な金融引き締まりや株価下落を伴えば、米国GDPへの純下押しは1.3~2.5%程度となる可能性がある。基礎成長率が2%台前半なら、景気後退が現実的なリスクとなる。

これらは点予測ではなく、各機関の原油感応度と国防支出乗数を組み合わせたシナリオ計算である。とりわけ極端な供給途絶では、過去の小さな価格変動から得た係数を単純に延長できない。

GDPが堅調でも、経済的損失は残る

軍事費がGDPを支えるという説明は、戦争が経済に有益だという意味ではない。GDPは生産量を測る指標であり、その生産が生活水準や将来の生産能力をどれだけ高めたかまでは判断しない。

ミサイルの補充でGDPが増えても、その資金、技術者、半導体、航空部品を電力網、交通、教育、民間研究開発に振り向けた場合より、将来の生産能力が小さくなる可能性がある。国防支出の短期的な需要効果と、中長期的な機会費用は分けて考える必要がある。

さらに、原油高と軍需増加が重なる局面では、インフレを警戒するFRBが金融緩和を遅らせやすい。政府支出が増えても、住宅投資、設備投資、耐久消費財が金利上昇で減少する。ヘッドラインGDPが横ばいでも、家計の実質所得や民間需要はそれ以上に悪化している場合がある。

結論

イラン戦争が1年続いた場合の米国GDPへの下押しは、管理された長期化なら0.1~0.3%程度、深刻な輸送障害が続けば0.5~0.9%程度、海峡閉鎖と地域戦争への拡大なら1.3~2.5%程度と考えるのが妥当である。

短期GDPに対しては、軍事費が原油高の悪影響を一部相殺する。しかし、その裏側では民間消費と投資が圧迫され、政府債務と将来の利払いが増える。戦争の経済的な重さを判断するなら、GDP成長率だけでなく、実質可処分所得、民間最終需要、設備投資、インフレ、財政余力を合わせて見る必要がある。

最大の分岐点は戦争の暦上の長さではない。ホルムズ海峡がどの程度機能し、原油価格がどの水準に、どれだけ長くとどまるかである。

参考資料

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