マンチェスターの小さな選挙区で起きたこと──「負け方」が問題だという話

2026年2月26日、マンチェスター南東部のガートン&デントン選挙区で下院の補欠選挙が行われた。人口8万人弱の都市型選挙区。普段なら全国ニュースのトップを飾るような場所ではない。

ところが、結果は英政治の地殻変動を想起させた。

緑の党のハナ・スペンサー候補が14,980票(得票率40.7%)で当選。2位はリフォームUKの10,578票(28.7%)。与党・労働党は9,364票(25.4%)で3位に沈んだ。保守党と自由民主党はいずれも得票率2%未満。事実上、消えた。

この選挙区は90年近く労働党が握ってきた鉄板の議席だ。2024年の総選挙では得票率50.8%、13,000票以上の大差で勝っている。それがわずか1年半で25ポイント以上も支持を失った。何が起きたのか。

三つ巴の背景

前職のグウィン議員は不適切発言で労働党からの処分(WhatsApp上の攻撃的メッセージ等を理由に停職・無所属化)を受けた後、健康上の理由で辞職した。後任選びでは、マンチェスター市長のアンディ・バーナム氏が国政復帰を目指したが、労働党の全国執行委員会(NEC)が立候補を却下。「党本部が地方の人気者を潰した」という反発が広がった。

バーナム氏が立っていれば勝てたのか。正直わからない。ただYouGovの2月調査では、2024年労働党投票者のうち同氏を好意的に見る人は55%で、労働党の主要政治家で唯一、過半数の支持を得ていた。少なくとも候補選定の経緯が「わかりやすい怒りの対象」になり、逆風を増幅したのは確かだろう。

結果として選挙は三つ巴になった。注目すべきは、三者がそれぞれ別方向から票を集めたことだ。緑の党は「スターマー政権の中道路線では不十分」という左派の不満を吸収し、リフォームUKは移民問題を軸に従来の労働党層にも食い込んだ。労働党は左右の両方から同時に削られた。

「負けたこと」ではなく「負け方」

補欠選挙で与党が負けること自体は珍しくない。有権者が抗議票を投じるのはよくある話だ。問題は、どう負けたかにある。

保守党に負けたなら左右の対立として整理できる。リフォームUKだけなら移民不満で説明がつく。しかし同じ左派圏の緑の党に大差で負け、リフォームUKにも上を行かれたとなると、話はもっと構造的になる。労働党の支持基盤そのものが左右に分裂し始めている、ということだからだ。

全国世論調査を見ると、これは一選挙区だけの話ではなさそうに見える。PollCheckの2月25日時点の7社平均で、リフォームUK 27.3%、労働党20.1%、保守党18.9%、緑の党13.7%、自民党12.3%。与党が全国支持率で第2党というのも異例だが、それ以上に目を引くのは二大政党の合計が39%しかないことだ。かつて両党で8割を占めた時代からすると、風景がまるで違う。

一般化して見ていいのか

ここで考えたいのは、補欠選挙の結果をどこまで全国の話として読めるか、という点だ。

ガートン&デントンには特殊要因がある。選挙区人口の約28%をイスラム教徒が占め、労働党のガザ外交への反発が強かった。大卒層や学生が多く、緑の党のメッセージが響きやすい土壌もあった。バーナム氏の却下という明確な怒りのきっかけもあった。そして補欠選挙は投票率が下がりやすく(今回47.6%)、熱心な支持者の票が大きく見える。

つまり「英国全体で二大政党制が崩壊した」と結論づけるには、サンプルが偏っている可能性がある。さらに英国の単純小選挙区制は、得票の分散がそのまま議席の分散にはならない。全国で薄く票を集めても、各選挙区で1位にならなければ議席はゼロだ。この制度の壁は厚い。

ただ同時に、「局地的ショック」で片付けられるかも、まだわからない。その答えが出るのは5月7日だ。

5月7日が試金石

この日、イングランドの地方選に加え、5年に一度のスコットランド議会選挙とウェールズ議会選挙が同日に行われる。総選挙を除けば最大規模の選挙日だ。

もしガートン&デントンで見られた「左右からの同時の切り崩し」が他地域でも再現されれば、今回の結果は前兆だったことになる。逆に5月が落ち着けば、特殊な一件として吸収される。

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