銀行と金利についてわかりやすく
銀行の仕事を一言で言えば、「短く借りて、長く貸す」だ。普通預金や当座預金でお金を集め(短期の借入)、それを住宅ローンや企業融資に回す(長期の運用)。短期金利と長期金利のあいだに差があれば、その差が銀行の利ざやになる。これが「満期変換」と呼ばれる機能で、商業銀行のビジネスモデルの根幹にある。
ここまでは教科書的な話で、とくに異論はないだろう。では次の問いに進もう。その金利が動いたとき——上がったり下がったりしたとき——銀行のバランスシートには具体的に何が起きるのか。そしてそれを、銀行はどうやって数字で把握しているのか。
BPVという道具
銀行のALM(資産負債管理)部門が日々見ている指標のひとつに「BPV」がある。Basis Point Valueの略で、金利が1ベーシスポイント(0.01%)動いたときに、ポートフォリオの現在価値がいくら変わるかを示す。PV01やDV01とも呼ばれる。計算の原理そのものはシンプルで、大ざっぱに言えば「修正デュレーション×現在価値×0.0001」になる。デュレーションが長いほど、そして残高が大きいほど、BPVは大きくなる。
直感的に考えてみよう。10年の固定金利国債を100億円持っていたとする。金利が0.01%上がったとき、この国債の価値はざっくり800万円ほど下がる。これがBPVだ。一方、普通預金100億円は金利がわずかに動いても現在価値はほとんど変わらない。満期が事実上ゼロに近いからだ。この「感度の差」が、銀行のバランスシートにおける金利リスクの正体である。
実務ではこれをもう少し細かく使う。イールドカーブ全体が一様に動く「パラレルシフト」だけでなく、特定の年限——たとえば1年、3年、5年、10年——の金利だけを1bp動かしたときの価値変化を「グリッドBPV」として計測する。カーブがフラット化したりスティープ化したりする現実の動きに対応するためだ。
銀行のALMでは、資産側のBPVと負債側のBPVをそれぞれ年限ごとに計算し、その差——「ネットBPV」——を見る。ネットBPVがプラスなら、資産のほうが金利に対してより敏感だということだ。金利が上がれば、資産の価値の落ち幅が負債の落ち幅を上回り、銀行の経済的価値(EVE: Economic Value of Equity)は目減りする。
ここで一つ、立ち止まって整理しておきたい。「金利が下がると債券価格は上がるから儲かる」という話と、「ネットBPVがプラスである」という話が、頭のなかでうまくつながらないことがある。BPVの数字は金利が「動いたとき」の価値の変化額を示しているのだが、その符号——プラスかマイナスか——は「どちら向きに得をするか」を教えている。資産側のBPVが負債側より大きい(ネットBPVがプラス)とは、金利が下がったとき、資産の価値上昇幅が負債のそれを上回るということだ。つまり「金利が下がれば銀行全体の経済的価値が増える」ポジションにいることを、ネットBPVがプラスという言い方で表現している。
裏を返せば、金利が上がれば逆のことが起きる。資産の価値の落ち幅が負債の落ち幅を上回り、銀行の経済的価値(EVE: Economic Value of Equity)は目減りする。金利低下で得をするポジションは、金利上昇で損をするポジションでもある。同じコインの裏表だ。
では、ネットBPVがプラスの銀行は危ないのだろうか。そうではない。むしろ「短く借りて、長く貸す」を実行している以上、ネットBPVがプラスになるのは構造的な必然だ。利回り曲線が右肩上がりであるかぎり、銀行はこのポジションから利ざやを稼ぐ。ネットBPVのプラスは、銀行が本業を営んでいることの数学的な表現にすぎない。
とはいえ、放置していいわけでもない。ALM部門が実務でやっているのは、各年限のネットBPVを「許容範囲」に収める作業だ。長いところのBPVが大きすぎれば、金利スワップ(固定払い・変動受け)を実行してリスクを相殺する。このヘッジの必要量は、「削りたいBPV÷スワップ1単位あたりのBPV」で機械的に決まる。バーゼルのIRRBB規制では、金利ショック時のEVE減少額がTier1資本の15%を超えると「アウトライアー」として監督当局の即時通知・レビュー対象となる。数字の管理は日次であり、枠を超えればすぐにアラートが飛ぶ。
利下げ局面のねじれ——EVEとNIIは逆方向に動く
SVBの話は利上げ局面のリスクだった。では逆に、中央銀行が利下げに転じた場合はどうなるか。
ネットBPVがプラスの銀行にとって、金利低下はEVE(経済的価値)を押し上げる。長期の固定金利資産の現在価値が上昇し、含み益が拡大する。バランスシートの「ストック」としては良い方向だ。保有有価証券の含み益を売却して実現すれば、決算上の利益の嵩上げにも使える。
ところが、毎期の損益計算書——つまり「フロー」としてのNII(純金利収入)——には逆の圧力がかかる。なぜそうなるのか。ここには3つのメカニズムが絡んでいる。
第一に、貸出金利と預金金利の反応速度が異なる。変動金利の企業向け融資は市場金利の低下に比較的速く連動する。新規の住宅ローンの利回りも下がる。一方で預金金利は、銀行に裁量があるとはいえ、競合との関係や顧客維持の観点から大幅には下げにくい。資産の利回りは速く落ちるが、負債のコストは粘着する。
第二に、ゼロ金利フロアの存在がある。金利がゼロに近づくと、預金金利をそれ以上下げることは事実上できない。リテールの顧客にマイナス金利を適用すれば預金流出を招く。運用利回りは市場金利に沿って下がり続けるが、調達コストはゼロで止まる。利ざやが片側から圧縮されていく。
第三に、この非対称性は「deposit beta(預金金利の市場金利に対する追随率)」が利上げと利下げで異なることを意味する。利上げ局面では預金金利をある程度引き上げざるを得ないが(betaが高い)、利下げ局面ではゼロで止まる(betaがゼロに近づく)。利下げのNIIへのダメージのほうが構造的に大きいのだ。
日本の銀行はこの構図を四半世紀にわたって経験してきた。1990年代のバブル崩壊以降、日本は先進国で最も長い低金利環境を経験し、銀行のNIMは構造的に縮小を続けた。日本銀行協会のデータによれば、邦銀全体のNIMは2001年から2011年の10年間で約43bp低下し、2011年時点で1.0%にまで落ち込んでいた。2016年のマイナス金利政策導入後はさらに悪化した。IMFの2024年の金融セクター評価は、2016年以降の金利低下が邦銀のNIMに持続的な下方圧力をかけ、とくに地方銀行の収益性が構造的に弱いままだと指摘している。CEPRの国際比較研究によれば、低金利環境下では政策金利が1%下がるとNIMが約17bp縮小するのに対し、高金利環境下では約9bpにとどまる。金利が低いほど、追加的な利下げのダメージは倍近く大きい。
つまり利下げ局面では、「バランスシートの含み益は増えるが、本業の稼ぎは細る」というねじれが起きる。EVEは改善し、NIIは悪化する。同じ金利変動から生じているのに、ストックとフローで方向が逆転する。実務上、銀行はこのねじれを有価証券の「益出し」で調整することがある。含み益の乗った債券を売却して実現益を計上し、NIIの落ち込みを補う。しかしこれは在庫の食い潰しにすぎず、持続可能な収益源ではない。規制上もEVEとNIIの両方を標準的な6本のショックシナリオ(パラレル上下、スティープナー、フラットナー、短期上下)で回して報告することが求められている。どちらか一方だけを守ればいいという話ではないのだ。
ねじれの主犯——NMD(満期のない預金)
このねじれの大きさを左右する最大の変数は何か。それは普通預金や当座預金のような「NMD(Non-Maturing Deposits:満期定めのない預金)」の取り扱いだ。
NMDには法的な満期がない。預金者はいつでも引き出せる。しかし実際には、普通預金の大部分は何年にもわたって銀行に滞留する。毎月の給与振込と生活費の引き落としが繰り返されるあいだ、個々の入出金は激しくても、全体としての残高は驚くほど安定している。この「底だまり(コア預金)」をどのくらいの期間の固定負債と見なすかによって、負債側のBPVが変わり、ネットBPVが変わり、EVEの感応度が変わる。
たとえば、普通預金の底だまりを「実質3年の固定負債」と見なせば、負債のデュレーションが長くなり、ネットBPVは縮小する。EVEの金利感応度は小さく見える。しかし同じ残高を「翌日物」と見なせば、ネットBPVは跳ね上がる。どちらが正しいかは、過去の預金行動のデータ分析から推定するしかない。実務では、過去10年程度の残高時系列から、計量経済学的な手法(誤差修正モデルや分布ラグモデルなど)を使ってコア部分の比率と平均滞留期間を推定する。
モデルの前提をひとつ変えるだけで、リスクの見え方が大きく動く。NMDモデリングがALMの精度を決める最大の要因と言われるのはこのためだ。
しかし重要なのは、EVEを守るモデルがNIIを守るわけではないということだ。NMDモデルで「預金は安定的に長く残る」と仮定してEVEのリスクを抑えても、預金金利のbetaが低ければ(市場金利が下がっても預金コストが追随しなければ)NIIの下方圧力は消えない。EVE向けのモデルとNII向けのモデルは、注目している変数が違う。一方を制御できても、もう一方がずれることは十分にあり得る。
バーゼル委員会のIRRBB規制がNMDの取り扱いに明確な上限を設けているのは、こうした構造的な問題を背景にしている。リテールの決済性預金であっても、コア預金として算入できる上限は残高の90%、その平均満期は最長5年。法人預金になるとさらに厳しく、コア比率50%、平均満期4年が上限だ。銀行がモデルの前提を楽観的に組み、負債のデュレーションを意図的に延ばして見かけ上の金利リスクを小さく見せることを、規制が正面から止めにかかっている。
結局のところ
BPVという指標は、銀行の金利リスクを「金利1bpあたりいくら」という形で可視化する道具だ。それ自体はシンプルである。債券のデュレーションを知っている人なら、原理はすぐにわかる。しかし、この道具を使って何を管理するかとなると、景色は一気に複雑になる。
EVEとNIIは同じバランスシートから生まれるのに、しばしば逆方向に動く。NMDのモデリング次第で、数字の見え方が大きく変わる。利上げと利下げで預金の振る舞いは対称ではない。規制はモデルの楽観を止めようとするが、モデルの前提を動かせば結論も動く。ヘッジのためのスワップをEVE向けに組むか、NII向けに組むかでも、金利が動いたときの損益の出方が変わる。
SVBの破綻は、BPVがプラスであること自体の問題ではなかった。サイズと、資金構造と、ヘッジを外した経営判断の問題だった。メガバンクがJGBのデュレーション判断に慎重なのも、構図としては同じだ。金利がどちらに動いても、何かが良くなれば何かが悪くなる。ALMとは、そのトレードオフを定量化し、どこまで許容するかを決め続ける——終わりのない作業にほかならない。
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