日本の中小企業保証制度という「延命装置」を考える

日本の企業の99.7%は中小企業で、雇用の約7割をそこが支えている。では、その膨大な数の企業が「なぜ潰れずにいるのか」と問われたら、どう答えるだろうか。

帝国データバンクの2026年1月の推計によれば、BIS基準でいう「ゾンビ企業」——3年連続でインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)が1未満、本業の稼ぎで利払いすらまかなえない設立10年以上の企業——は全国に約21万社。ゾンビ企業率は14.3%。7社に1社だ。

この数字をどう受け止めるかは人それぞれだろう。ただ、これだけの企業が市場から退場せずに残っている背景には、何らかの仕組みが効いている。その中核にあるのが、信用保証制度だ。

保証という「緩衝材」の構造

仕組みはシンプルだ。中小企業が銀行から融資を受けるとき、信用保証協会が保証人になる。返済不能になれば、協会が銀行に代わりに払う。その協会の損失は、日本政策金融公庫の信用保険がカバーする。保証+保険の二段構えで、銀行の信用リスクを薄めている。

重要なのは、銀行にとってのメリットが「損失の軽減」だけではない点だ。保証協会で保証された融資は、バーゼル規制上のリスク・ウェイトが大幅に軽くなる。金融庁資料では保証部分のリスク・ウェイトは10%とされている。期待損失が減るだけでなく、規制上の資本コストも下がる。だから景気が悪化して銀行がプロパー融資を絞ると、保証付きの比率が自然に上がる。信用収縮が起きるたびに、保証が「最後の緩衝材」として前面に出る構造になっている。

制度はいつ膨らんだか

東京信用保証協会の設立は1937年。信用保証協会法の制定が1953年。戦前・戦後の資金不足のなかで整備された公的インフラだ。

制度が一気に膨張した画期は1998年だった。バブル崩壊後の金融危機で銀行が中小向け貸出を急激に絞り、倒産が連鎖し、同年夏の参院選で自民党が大敗、橋本内閣が退陣した。後を継いだ小渕内閣が打ち出したのが、保証枠30兆円の「中小企業金融安定化特別保証制度」だった。保証債務残高は40兆円超にまで膨れ上がった。

この保証は「ネガティブリスト方式」——除外条件に引っかからなければ原則保証を通す設計——で運用された。スクリーニングが通常より弱い状態で大量の保証が実行され、倒産は劇的に減った。一方で、事業を見直すべきだった企業にも資金が流れた。

もうひとつの問題は保証割合が100%だったことだ。銀行は焦げてもまったく損をしない。すると審査が形式化しやすくなる。この修正として2007年に導入されたのが「責任共有制度」で、保証割合を原則80%に引き下げ、20%を銀行負担とした。

ただし例外がある。災害対応のセーフティネット4号、危機関連保証などは100%保証が維持された。そして危機が来るたびに、例外がボリュームになる。コロナ禍のゼロゼロ融資は約137万件・約23.4兆円。保証債務残高に占める100%保証の割合は、コロナ前の22.6%から最大63%まで跳ね上がった。2025年の中小企業庁資料でも、なお55.6%が100%保証だ。

「選挙のため」だったのか

ここまで読んで「要するに選挙対策では」と感じた人もいるだろう。

99.7%の中小企業、7割の雇用を抱える層は、政治的には巨大な票田だ。1998年の参院選大敗は生々しい教訓だっただろう。しかし「選挙目的だけ」では説明しきれない。金融安定(銀行の信用収縮防止)、雇用維持(失業率抑制)、地域政治の三つが同じ方向を向いたとき、保証は増幅される。選挙はこの三つを束ねる触媒だ。

コロナ禍のゼロゼロ融資は与野党を問わず推進された。あの局面で「保証をやるな」と言える政治家はいなかった。問題は「危機時に保証を出すこと」自体ではなく、「平時に戻っても依存が縮まらないこと」の方にある。

「クビを切らせない」もうひとつの装置

保証と並んで効いている仕組みがある。日本の解雇規制だ。

整理解雇には判例で確立された「4要件」がある。人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、手続きの妥当性。すべてを満たすのは中小企業には高いハードルだ。

ここに保証+雇用調整助成金が重なる。資金繰りが苦しくても保証付きで借りて人件費を払い、雇調金で休業扱いにする。倒産も減り、解雇も減り、見かけ上の失業率は抑えられる。しかし裏側では、成長産業に移るべき人材が停滞企業に塩漬けになり、労働移動が遅れ、賃金は上がりにくくなる。

「政治がそうした」とは言い切れない。個々の制度には合理的な理由があった。しかし重なったとき、労働市場の硬直化という長期のコストが積み上がった。

ゾンビ企業の実像

2024年度のゾンビ企業率14.3%は、ピークの2022年度(18.2%、約26.7万社)から2年連続で低下した。コロナ後の経済正常化と、倒産・休廃業を通じた新陳代謝が背景にある。

しかし中身を見ると楽観はできない。ゾンビ企業のうち、経常赤字・過剰債務・債務超過のすべてに該当する「倒産予備軍」は約3万6千社。2025年の年間倒産件数(1万261件)の約3.5倍だ。業種別では小売(19.6%)と運輸・通信(18.9%)が高い。従業員5人以下では20.7%。地域別では東北が20.4%で最高、東日本大震災から15年近く経っても借入負担の重い企業が残る。東京は8.8%で最低。労働市場が厚い都市部では新陳代謝が進みやすく、受け皿の限られる地方では保証が「より効く」。

「日本だけ」なのか

危機時の政府保証はG7で広く見られる。コロナ期には英国が100%保証のBBLSを、ドイツがKfW経由で事実上100%引受を、フランスが90%保証のPGEを打ち出した。米国SBAの7(a)は平時でも75〜85%保証だ。

日本の特徴は「平時からの依存の深さ」にある。全国52の保証協会が中小金融の基幹インフラとして常設で機能し、保証債務残高は2023年3月末で40.4兆円。他のG7では危機が去ると民間与信に戻りやすいが、日本では保証付きが「デフォルトの選択肢」になりやすい構造が長期にわたって続いている。

いま何が変わりつつあるのか

2026年現在、制度は転換点にある。キーワードは「延命から観測へ」だ。

コロナのゼロゼロ融資残高はピーク約21兆円から約9.8兆円まで減ったが、2024年度の倒産は1万70件で11年ぶりに1万件を超えた。中小企業活性化協議会への相談は過去最高水準に達している。

中小企業庁が進めているのは、資金繰り支援からモニタリングと再生支援を組み込んだ保証への転換だ。経営行動計画書の作成を要件化し四半期報告を求める伴走支援型が導入されている。2025年3月には「再生・再チャレンジ支援円滑化パッケージ」が公表され、保証協会と金融機関が連携して経営情報のモニタリングを高度化する枠組みが動き出している。

ここにもうひとつ、日銀の利上げという変数が加わる。ゼロ金利は利払い負担を軽くし、ICRの悪化を見えにくくしてきた。金利が上がれば、保証制度が覆い隠してきた企業の実態が可視化される。帝国データバンクも、金利上昇によるゾンビ企業率の再上昇リスクを指摘している。

この装置をどう見るか

日本の信用保証制度は、繰り返される危機のたびに膨張し、縮小しきれないまま次の危機を迎えてきた。信用収縮を止め、倒産の連鎖を防ぎ、雇用を守った。同時に、企業の新陳代謝を遅らせ、生産性の低い企業が残りやすい環境をつくった。どちらもデータが裏づけている。

過去のように「危機→100%保証→平時に戻っても縮まない→次の危機」を繰り返す余力は、財政的にも人口動態的にも細っている。人手不足が常態化した社会では、企業を存続させることよりも人材を流動させることの方が雇用維持に有効な局面が増えている。

保証という装置はおそらくなくならない。しかし、それが「何のために動いているのか」——延命か、再生か、退出支援か——の答えは、これから数年で書き換わる可能性がある。約21万社のゾンビ企業、40兆円規模の保証債務残高、金利のある世界。この「会社を潰さない国」の輪郭が今後どう変わるか。答えはまだ出ていない。

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