二大政党が溶ける英国──16歳選挙権の意味

2024年7月、英国で労働党が地滑り的勝利を収めた。議席411。圧勝だった。あれからまだ2年も経っていない。ところが2026年2月、世論調査を開くと風景がまるで違う。PollCheckの7社移動平均(2026年2月12日更新)で、首位はReform UK──29.7%。労働党は19.3%、保守党は19.1%。ほぼ横並びで2位を争っている。緑の党が14.1%、自由民主党が12.3%。二大政党合わせても4割に届かない。

これはいったい何が起きているのか。

この問いに「ポピュリズムの台頭」と一言で片づけることはできる。しかしそれでは、いま英国で進行していることの構造が見えない。ここで起きているのは、もっと地味で、もっと厄介なことだ。有権者の不満が一方向に流れるのではなく、右にも左にも同時に漏れ出して、選挙制度が想定していなかった四極構造を生みつつある、ということだ。しかも右に漏れた票と左に漏れた票は、年齢層も地理も争点の優先順位もまるで違う。一つの処方箋では対処できない種類の分裂が進んでいる。

しかも、その渦中で「16歳に選挙権を与える法案」が議会に投入された。2026年2月12日のことである。これが通れば約150万人の新しい有権者が生まれる。しかし、その150万人がどちらに傾くかは、多くの人が直感的に思うほど単純ではない。

この文章では、英国の「四分裂」の構図をまず整理し、次に16歳選挙権が持ちうる効果を検討し、最後にそこから見えてくる──英国に限らない──ある問題を考えてみたい。

「もし明日選挙なら」の数字

まず、現状を数字で見ておこう。Electoral Calculusの世論調査平均に基づく議席推計(2026年1月時点)では、Reform UKが319議席。単独過半数の326にわずかに届かないが、最大党になる。保守党83、労働党68、自由民主党64、緑の党46、SNP(スコットランド国民党)44。

もっと大規模なサンプルを使ったMore in Commonの1月MRP(16,000人超を対象にした選挙区別推計)では、さらに劇的だ。Reform UK 381議席──過半数を112上回る。労働党はわずか85議席に沈み、2024年からの落差は326議席。保守党70。近代英国史で、政権与党がこれほど急速に支持を失った例はほとんどない。Brookings研究所はこれを「戦後政治史で2番目に大きな与党支持率の下落」と形容している。

ここで「本当にReform UKが過半数を取るのか」と思うのは自然な反応だろう。実は、この数字の読み方にはいくつかの留保がある。

第一に、31%の得票で60%の議席を取るという推計自体が、小選挙区制(First Past the Post, FPTP)の極端な歪みを反映している。得票率と議席率の乖離がここまで大きくなるのは、対立する票が複数に割れたときだけだ。言い換えると、この結果は「Reform UKが強い」というより「Reform以外が分裂している」ことの産物である。

第二に、戦術投票の効果がまだ織り込みにくい。Electoral Calculusが別途実施した戦術投票調査では、労働党支持者の3分の1が「Reform候補を落とすためなら保守党に投票する」と答えている。これを織り込むと、Reformの議席は335から60議席ほど減る計算になる。それでも最大党のままだが、過半数は消える。

第三に、Ipsos(2026年1月)のデータでは、国民の58%が「Reform UKは政権を担う準備ができていない」と答えている。ファラージが首相にふさわしいと答えたのは24%、ふさわしくないは59%。歴代の政権交代前の野党党首──たとえば1997年のブレア(53%が「準備できている」)や2010年のキャメロン(51%)──と比べると、数字は著しく低い。Reformの支持は「広いが浅い」──つまり「積極的に支持する」よりも「他に入れるところがないから」の消去法で選ばれている可能性が高い。

では、この不満はどこから来ているのか。

「壊れた国」という感覚

Ipsosの同じ調査で、英国人の7割近くが「社会は壊れている(British society is broken)」と回答した。この感覚は党派を超えている。Reform支持者の90%、保守党支持者の66%、緑の党支持者の64%、自由民主党支持者の57%、そして労働党支持者でさえ55%がそう感じている。

Brookingsの分析は、この不満の根をBrexitより前に遡らせている。2008年の金融危機以降、英国では実質賃金の停滞、公共サービスの劣化、住宅費の高騰が続いた。2016年のBrexit投票は「圧力弁」として機能した──当時あるジャーナリストは「英国のシステムは機能している、だからBrexitで済んだ。米国の政治は壊れている、だからトランプなのだ」と書いた。しかしBrexitの後も根本問題は解決せず、不満はくすぶり続けた。2024年に「変革」を掲げて勝った労働党政権もまた、就任1年で「何も変わらない」という印象を与えてしまった。首相自身がNew Statesmanのインタビューで「保守党を代えるだけで自動的に良くなると思っていた」という趣旨の発言をしたことが、この印象を強めた。2026年1月時点で、「物事は悪くなっている」と答えた英国人は4分の3。「良くなっている」と答えたのはわずか8%。Ipsosによれば、経済見通しへの楽観度は1978年の調査開始以来最低を記録している。首相の満足度は就任14か月で過去50年の首相中最低。

この状況で、有権者の不満は一つの受け皿に流れ込んだのではなく、二つに分かれた。右側にはReform UK。左側には緑の党。この「両極への同時流出」が、英国の現在の構図を特徴づけている。

緑の党の台頭──見落とされがちなもう半分

Reformの躍進に比べると、緑の党の成長は報じられにくい。しかし数字を見れば、その伸びは顕著だ。YouGovの2026年2月初頭の調査では17%。2024年総選挙では6.7%だったから、倍以上に伸びている。党員数は18万人を超え、自由民主党をまず追い抜き、次いで保守党も抜いた。2025年9月にザック・ポランスキーが党首に選出されてから、左派ポピュリズム路線を鮮明にしている。

労働党からの流出先を見ると、構図がよくわかる。YouGovの大規模分析によれば、2024年に労働党に投票した人のうち、いまも労働党を支持しているのは38%にすぎない。15%が緑の党へ、9%が自由民主党へ、8%がReform UKへ移り、17%は「わからない」。出口が一つならまだ対処のしようがあるが、四方に散っている。これが労働党の回復を困難にしている構造だ。

Statista(2026年1月データ)によれば、18〜24歳で最も支持されている政党は緑の党で38%。労働党でも保守党でもない。YouGovのより詳細な分析では、18〜24歳の女性に限ると44%が緑の党を支持し、同年齢の男性は30%。ここに大きなジェンダーギャップがある。

この「若者=緑の党」という構図は、少し前までの英国では考えにくかった。2024年総選挙時点でも緑の党の若年層支持は12〜23%の範囲で、それ自体が歴史的な水準だった。それがさらに倍増したのだ。

ただし注意が必要なのは、この変化が「若者が急にリベラルになった」ことを意味するわけではない点だ。実際にはもう少し複雑なことが起きている。New Statesmanは2026年初頭の論考で、メディアの関心が「右傾化する若年男性」に集中しがちだが、実は若年男性のReform支持率(12%)は全体平均(14.3%)より低く、68%の若年男性はなお左派・リベラル政党に投票している、と指摘した。むしろ注目すべきは、若年女性の23%が緑の党に投票したという事実のほうだ──全体平均の6.7%の3倍以上である。「急進化」しているのは、メディアが注目する若年男性よりも、実は若年女性のほうかもしれない、という逆説的な見方だ。

若年層の「分極」──性別で割れる政治

シンクタンクOnwardが2025年に5,000人規模で実施した調査(16〜40歳対象)は、英国の若年政治を理解するうえで欠かせないデータを提供している。

16〜25歳の男性の投票意向で首位はReform UK──31%。ところが同年齢の女性ではReformは3位に沈み、首位は緑の党(25%)。最もギャップが大きいのは16〜20歳で、男性の47%が右派(Reform+保守党)を支持するのに対し、女性では25%にとどまる。

これは英国固有の現象ではない。欧州社会学レビュー(European Sociological Review)に掲載された32か国のデータ分析では、若い世代ほど男女の左右自己位置づけの差が拡大してきたことが示されている。ドイツでは2025年2月の連邦議会選挙で、18〜24歳の女性の37%が左翼党に投票したのに対し、同年齢の男性では18%。代わりに男性の25%がAfD(右派ポピュリスト)に投票し、女性は13%だった。

つまり、「若者はリベラル」という一枚岩の理解は、もう使えない。より正確には「若い女性が左に寄り、若い男性の一部が右に寄る」という分極(polarisation)が進んでいる。この傾向は英国に限らず、欧州全体、さらには米国でも観測されている。

なぜこうなるのか。

Onwardの報告は、いくつかの手がかりを示している。まず、争点の優先順位が男女でずれている。男性は移民を上位争点に置きやすく、女性は社会的安全やケア領域を重視する傾向がある。次に、情報環境の分岐。同じSNSを使っていても、男女でたどり着くコンテンツが異なる。推薦アルゴリズムがこの分岐を増幅する。さらに、高等教育への参加率の差(英国では女性が56%)が、居住地や職業選択を通じて政治態度に影響する経路がある。

ただし、ここで「生物学的に決まっている」と結論づけるのは無理がある。この分極が時代とともに拡大したり縮小したりすること自体が、固定的な要因だけでは説明できないことを意味している。環境の変化──SNS、労働市場の構造転換、ジェンダー規範をめぐる社会的議論──が、潜在的な差異を政治的な対立として可視化している、というのが現時点で最も整合的な説明だろう。

もう一つ、興味深いのは交際関係と政治態度の相関だ。Onwardのデータでは、独身男性の31%がReform支持(男性全体では26%)、独身女性の24%が緑の党支持(女性全体では18%)。結婚している男女のあいだでは、この政治的ギャップはほとんど消える。政治を「所得再分配」だけでなく「所属と承認」の装置として見ると、この相関には一定の説得力がある。

16歳選挙権──法案の現在地

この分極が進む若年層に、新たに150万人の有権者を加える法案が、2026年2月12日に下院に提出された。Representation of the People Bill 2026。政府はその政策サマリーで「若者を民主制に早く接続する」という理念を掲げている。庶民院図書館(House of Commons Library)も2月13日付で法案の概要ブリーフィングを公表した。

法案が成立するかどうか。労働党は2024年選挙で得た圧倒的多数を下院で維持しており、保守党やReformが反対しても数で押し切れる。上院(貴族院)は遅延させることはできるが、最終的に阻止はできない。成立は2026年後半が有力視されている。

問題は「通るかどうか」より「効くかどうか」だ。

150万票はどこに落ちるのか

16歳選挙権が「左に有利」と見なされるのは、直感的にはわかりやすい。しかし、FPTPのもとでは「全国の得票率」より「どの選挙区で票が増えるか」が議席への効き方を決定的に左右する。ここが議論の核心だ。

16〜17歳の人口は都市部、とりわけ大学都市や大都市圏に偏在している。これらの地域は、すでに労働党や緑の党が大差で勝っている選挙区が多い。たとえばロンドンの選挙区で労働党が15,000票差で勝っているところに5,000票の若年票が加わっても、議席は動かない。「安全圏」がより安全になるだけだ。

一方、Reformが猛追している「Red Wall」(伝統的労働党地盤だった北部・中部の工業都市)や沿岸部の選挙区は、人口構成が高齢に偏っている。16〜17歳の有権者は相対的に少ない。ここにわずかな若年票を加えても、50歳以上のReformへの大移動を打ち消すには足りない可能性が高い。

Onwardのデータを思い出してほしい。16〜25歳の男性の31%がReform支持だった。150万人の新規有権者は半分が男性で、その一部はReformに投票する可能性がある。「若者=左」という前提が崩れると、計算は狂う。

さらに、緑の党への流出という問題がある。新しい若年有権者が労働党ではなく緑の党に投票すれば、都市部での左派票の分裂がさらに進む。これは労働党を助けるどころか、一部の接戦区で足を引っ張る可能性さえある。

先行事例は何を教えているか

英国内にはすでに16歳選挙権の先行事例がある。スコットランドでは2014年の独立住民投票で16〜17歳が初めて投票した。全体の投票率は84.6%と非常に高く、16〜17歳も約75%が投票したとされる。しかしこれは、独立という一世一代のイベントだからこそ達成された数字だろう。日常的な議会選挙で同じことが起きるとは考えにくい。

ウェールズでは2021年にセネッド(ウェールズ議会)選挙、2022年に地方選挙で16歳選挙権が導入された。しかし結果は控えめだった。セネッド選挙の全体投票率は46.6%、地方選は38.7%。カーディフ大学の研究者は2025年の報告書で、ウェールズの16歳選挙権導入を「false start(不発)」と表現している。登録と動員の実務が追いつかなかった、という評価だ。

オーストリアでは2007年から16歳選挙権が導入されており、より長期のデータがある。学術研究では、16〜17歳の投票の「質」(政治知識、選択の一貫性)が18〜20歳より有意に劣るわけではない、とされている。ただし同じ研究は、政治的帰結が「中立ではない」可能性──たとえば極端な立場への自己同一化が増える──も示唆している。

つまり、16歳選挙権は「入れれば自動的に投票率が上がる」わけでも「入れれば自動的に左が得する」わけでもない。登録の仕組み、学校での市民教育の充実度、そして何より選挙そのものの争点設定によって、効果はまったく変わりうる。

教育と登録──本当のボトルネック

理念の議論はここでいったん置いて、実務の問題を見ておこう。150万人の新規有権者を選挙人名簿に載せるには、学校や自治体との連携が不可欠だ。選挙管理委員会(Electoral Commission)は、ウェールズの経験を踏まえ、新規有権者への教育と周知の必要性を繰り返し指摘している。

イングランドでは、11〜16歳を対象にCitizenship(公民)が法定カリキュラムに含まれている。政治制度を教える枠組みはある。しかし同時に、学校には政治的中立(impartiality)の法的義務が課されており、政府がガイダンスを出している。「政治を教えるが、特定党派に誘導しない」という建付けだ。

問題は、この建付けが現場で機能しているかどうかだ。Full Fact(英国のファクトチェック機関)の調査では、若者の6割が「虚偽の主張やAI生成コンテンツが有権者を誤導しうる」と懸念している。16歳に選挙権を与えるなら、メディアリテラシー教育が「あったほうがいい」から「なければ危険」に変わる。

庶民院図書館のブリーフィングでも、16歳選挙権を政治教育の刷新機会と捉える議論と、学校現場の躊躇(政治的中立をどう保つかへの不安)が並記されている。法案が通っても、教育と登録の実装が追いつかなければ、ウェールズの「不発」が全国規模で繰り返される可能性がある。

Reformの「武器化」シナリオ

16歳選挙権には、もう一つの政治的リスクがある。Reform UKがこれを「制度いじり」として攻撃する可能性だ。

「子どもに投票権を与えて、自分たちに有利な票を作ろうとしている」──こういうフレーミングは、Reformの支持者層(中高年、反エスタブリッシュメント志向)に刺さりやすい。怒りは動員力になる。普段は投票に行かない層が「子どもの票で自分の声がかき消されるのか」と感じて投票所に足を運べば、16歳選挙権の効果は相殺される。Lord Ashcroftの調査が示すように、右派の結集はかえって戦術投票を左派にも誘発するため、全体の帰結は予測困難になる。

ここに、FPTPの根本問題が露呈する。

壊れかけた選挙制度

More in CommonのMRPが示した「31%の得票で60%の議席」という数字を、もう一度考えてみたい。これはReform UKが「強すぎる」のではなく、選挙制度が「壊れかけている」ことを意味している。

FPTPは二大政党制を前提に設計されている。候補者が2人か3人なら、当選者は過半数かそれに近い得票を得る。しかし有力候補が4人いると、30%台で当選する選挙区が続出する。More in Commonの推計では、Reformの勝利選挙区の多くは35%未満の得票で、約100の選挙区では3党以上が10ポイント差以内にひしめいている。

これは一方の陣営だけの問題ではない。左派が労働党・緑の党・自由民主党に分裂し、右派がReformと保守党に分裂することで、両側で「票の非効率」が起きている。Electoral Calculusのデータでは、左派系の合計得票(労働+緑+自民)は右派系(Reform+保守)を上回る場合もある。しかしFPTPでは、分散した多数派が集中した少数派に負ける。

Brookingsの分析が「2024年に匹敵する近代英国史上最も不均衡な選挙結果」と表現するのは、この構造的歪みを指している。

16歳選挙権は、この歪みの上に追加される変数にすぎない。全国の得票率を数ポイント動かすことはできても、FPTPの「どの選挙区で増えるかがすべて」というルールは変えられない。本当に「公正な代表」を議論するなら、選挙権年齢よりも選挙制度そのものを問うべきだ、という議論が浮上するのは自然な成り行きだろう。実際、緑の党も自由民主党も比例代表制の導入を求めており、仮にハングパーラメント(過半数党なし)が成立した場合、連立の条件として比例代表制を要求する可能性がある。

「3年後」は存在するのか

最後に、時間軸の問題に触れておきたい。次の総選挙の法定期限は2029年8月15日。まだ3年半ある。現在の世論調査は「もし明日選挙なら」の数字であり、3年後にそのまま再現されるとは限らない。

LabourListの分析によれば、2026年1月後半から労働党の支持率はわずかに回復し、YouGovで17%→21%(その後19%に戻ったが)、IpsosではReformとの差が15ポイントから8ポイントに縮まった。David Cameronは2012年、総選挙3年前に14ポイント差で野党に劣勢だったが、2015年には単独過半数を得た。前例がないわけではない。

しかし、現在の英国政治には過去にない要素がある。四極化だ。不満の受け皿が一つ(2012年のUKIPはまだ小さかった)ではなく、Reform UKと緑の党という二つの「外側の力」が同時に成長している。これは二大政党どちらにとっても、失った票を取り戻す難度が格段に上がることを意味する。

Lord Ashcroftの調査は、もう一つ重要な事実を示している。ReformUKと保守党の支持者を足し算で合わせると47%程度になるが、仮に両党が連携した場合、その合計は34%にまで縮む(上限38%)。つまり「右の統一」は約10ポイントの票を失う。中道寄りの保守党支持者がReformとの同盟を嫌って離脱し、左派側の戦術投票も増えるからだ。ニュートンの第三法則のように、右の結集は左の結集を引き起こす。

同じロジックは左にも当てはまる。労働党・自由民主党・緑の党・SNPの「反Reform連合」を組もうとすれば、比例代表制やスコットランド独立住民投票といった「飲みにくい薬」が条件として要求される。連合の幅が広がるほど、内部の遠心力も大きくなる。

結局、何が見えているのか

ここまでの整理を振り返ると、いくつかのことがわかる。

英国の有権者は「壊れた社会」という感覚を広く共有しており、その不満は右と左の両方向に同時に流出している。この四極化はFPTPのもとで極端な議席分布を生み出しうる。16歳選挙権は全国レベルでは左派に数ポイントの得票増をもたらすかもしれないが、選挙区単位の議席効率を考えると、その影響は限定的である可能性が高い。むしろ、左派内の票割れを助長するリスクや、Reformの動員材料になるリスクもある。若年層の政治態度は「一様にリベラル」ではなく、性別によって大きく分岐しており、この分極は英国固有のものではなく欧州全体のトレンドの一部である。

そして、おそらく最も重要な問いはこれだ。選挙権の年齢線を動かすことは──それ自体は民主主義の包摂性を広げる正当な議論だが──有権者の根本的な不満に答えることになるのか。「社会は壊れている」と7割が感じている国で、投票箱にアクセスできる人を増やせば問題は解決するのか。

答えは、おそらくNoだ。しかし同時に、だからといって16歳選挙権に意味がないともいえない。「投票を学校在学中に経験すると、その後の選挙でも投票しやすくなる」という習慣形成効果は、学術的にも一定の根拠がある。問題は、それが短期の選挙戦術として使われたときに、長期の民主主義の基盤づくりとしての意義が霞むことだ。

英国の実験は、他の民主主義国にとって無縁ではない。高齢化、二大政党制の弱体化、若年層の分極、SNSによる情報環境の分断──これらは程度の差こそあれ、日本を含む多くの国が直面している構造的課題だ。日本では2015年に選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられたが、18〜19歳の投票率は依然として全体平均を大きく下回る。制度を変えても、動員と教育の設計が伴わなければ「参加」は生まれにくい、という教訓は英国の事例と重なる。英国で16歳選挙権がどう機能するか(あるいは機能しないか)は、その条件を観察する格好の事例になるだろう。

次の3年間、英国政治がどう動くかは、世論調査の数字そのものより、この「地面」の変化をどれだけ精密に見られるかにかかっている。

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