スワップ取引の整理



金利スワップ 

金利スワップの場合、国債への投資などと異なり、契約時に支払う金額がないため、実際に固定や変動金利の受払をするためには、元本を想定する必要がある。これを想定元本という。例えば、1億円の想定元本をベースに、1%の固定金利を支払う場合は、1億円の1%に相当する100万円を毎年支払うことになる。ちなみに、金利スワップ契約を結ぶ際に、相手方となる金融機関をスワップ・カウンター・パーティという。

プライスの仕組

例)ある地方自治体の発行体とカウンターパーティは、2006 年 1 月から 1 億ドルの「プレーン・バニラ」スワップに合意し、3 年満期で、地方自治体の発行体がカウンターパーティにスワップ・レート(固定レート)を支払い、 LIBOR6 カ月(変動レート)を受け取る場合、上記の計算式を用い、以下のとおり計算できる。

分子:6ヶ月LIBORの「先物」レートで、変動部分の支払額の現在価値を見積もることで算出


分母:同様にPVを計算


スワップ金利:


スワップ金利が分かれば、カウンターパーティは「スワップ・スプレッド」を決定できる。市場の慣例では、同等の満期を持つトレジャリー等、RFRをベンチマークとして使用する。例えば、3年物米国債の満期利回りが4.31%の場合、この場合のスワップスプレッドは30ベーシスポイント(4.61%-4.31%=0.30%)である。

Understanding Interest Rate Swap Math & Pricing (ca.gov)

金利スワップと国債の類似性

実務的には、国債を保有する場合、国債を担保に1営業日など短期の資金調達をすることができるため、レ ポ・コストを支払うことになる。つまり変動金利を受け取ることを意味する。そのため、国債のショートは、金利スワップにおいては「固定金利を払う」ことと類似的な経済性をもつ。

国債のロング(ショート)

≒金利スワップの固定受け・変動払い(金利スワップの変動受け・固定払い)

国債への投資(国債のロング)も、資金調達という側面まで考えれば、固定金利を受け取り、変動金利を支払う経済行為と解釈可能であり、キャッシュ・フローの特性を見れば金利スワップと類似性が高いと解釈することができる。国債に投資する場合、その金利水準が投資家にとって魅力的であればロングすればよいし、そうでない場合はショートすればよい。国債の場合、このように判断することは当たり前のように感じるかもしれないが、スワップについても全く同じように取引されている。固定金利に相当する金利スワップ・レートの水準が魅力的であれば投資家は金利スワップを受け(国債のロングに相当)、割高だと考えれば払う(国債のショートに相当)。実際に、円金利市場では円金利スワップは国債とほとんど同じように取引がなされており、市場環境次第では日本国債以上に円金利スワップの流動性が高いと指摘されることもある。

参照金利

変動金利の種類に応じて様々なスワップ・レートが存在する。円金利についてはこれまで6か月円LIBORをインデックスとした金利スワップが最も多く取引されていた。例えば、6か月円LIBORをインデックスとした10年金利スワップを受ける場合、10年間固定金利を受ける一方で、6か月ごとにその時々の6か月円LIBORを支払う。

OIS

リスク・フリー・レートを LIBOR 等のターム物レートに代わる金融 商品の参照金利とするためには、期間構造が必要である。この点において、OIS(Overnight Index Swap)レートは、リスク・フリー・レート(円であれば無担保コール O/N 物レート)を原資産とすることから、リスク・フリー・レートベースのターム物 金利として活用することも考えられる。

OISは「後決め複利」になっている。OISがインデックスとするのは1営業日の金利だが、スワップの受け手は事務の手間などを考えれば実際には毎営業日TONAを支払うわけにはいかない。そこで、TONAの6か月複利など一定期間の複利を変動金利として支払う一方、固定金利を受けるという制度設計がなされている。(ここでの「後決め複利」とは金利計算区間の実現複利で最終的な金利が決まることを指している)。

定義:OIS は、金利スワップ取引の一種である。金利スワップは、異なる金利(固定金利と変動金利または変動金利同士)を一定期間毎に交換する取引であ り、伝統的に、変動金利として LIBOR を参照するものが多く取引されていた。 OIS は、固定金利と変動金利を交換するスワップの一種で、変動金利として、 LIBOR ではなく翌日物金利を参照するものである。なお、OISの固定金利は OISレートと呼ばれる。 OIS の取引年限は、短期(数週間~2 年)から超長期(30 年)まで広くある。ほぼ全てのOIS取引で中央清算機関が利用されている。OIS レートは、LIBOR や TIBOR といった IBOR と異なる性質を持っている。OIS レートは、参照金利である無担保コール O/N 物レートと同様に、 含まれる銀行の信用リスクはごく限定的であるほか、翌日物金利に対する 市場見通しを強く反映する、変動金利の受払額が金利計算期間の満期日に 確定するといった性質がある。このような性質に適した形で、OIS は、ヘッジや裁定取引の目的で広く用いることが可能である。具体的には、保有国債等の価格変動に対するリス クヘッジ目的のアセット・スワップや資産と負債の金利感応度におけるミ スマッチ解消目的のスワップ、先行きの金融政策の見通しに基づく裁定取引等、様々な目的で用いることができる。

IBOR と OIS レートの性質の違い 

①IBOR の性質 (信用リスクを含む)

 IBOR は、銀行が他の銀行に無担保で貸付を行う際のターム物の金利であるた め、銀行の信用リスクを含んでいる。すなわち、各期間(例えば 6 ヶ月)にお ける、銀行の信用リスクプレミアムも含めた金利の市場見通しを示している。 このため、銀行の信用リスクを反映することが望ましい金融商品については、 IBOR を参照することが適切と考えられる。 (変動金利の受払額も金利計算期間の前に決定) IBOR は、変動金利の受払額も、金利計算期間の前に決まっている。利息支払額が金利計算期間の前に決まる点が評価される一方、金利決定日の市況を反映したレートが参照されることになるという留意点もある。

②OIS レートの性質 (信用リスクはごく限定的) 

OIS レートは、信用リスクがごく限定的である無担保コール O/N 物レートの市場見通しを反映しているため、無担保コール O/N 物レートと同 様に、リスク・フリーに近い性質を有している。デリバティブ取引の多くは、 取引当事者が意図する経済的なエクスポージャーという観点からは、必ずしも信 用リスクを含む参照金利を必要としないため、リスク・フリー・レートや OIS レ ートの利用が適していると考えられる。(変動金利の受払額が金利計算期間の満期日に確定) OIS は、変動金利の受払額が金利計算期間の満期日に、当該期間中の無担保コ ール O/N 物レートを複利計算して確定する。すなわち、利息支払額が、金利計算期間の満期日まで確定しないという特徴があると共に、期間中の金利変動を平均した結果となる。


活用事例:アセット・スワップ

資産サイドのキャッシュ・フローを別の種類のキャッシュ・フローに変換するスワップをアセット・スワップと呼ぶ。国債等の固定利付債を変動金利の資金調達で購入する場合、OIS(債券の残存期間と同期間の固定金利払い・変動金利受け)により、資産の金利変動リスクをヘッジするとともに、市場金利変動に伴う資金調達コストの変動リスクをヘッジすることができる。

活用事例:ALM スワップ

資産と負債の金利感応度にミスマッチがある場合に、これをバランスさせるために用いるスワップである。 コール市場・預金・短期社債など短期金利(変動金利)に連動するコストで資金調達を行い、長期国債・長期ローンなど長期金利(固定金利)に連動するリタ ーンの資産運用を行っている場合、OIS(固定金利払い・変動金利受け)により、 資金調達と運用のミスマッチを解消することができる。

活用事例 :OIS/IBOR ベーシス・スワップ

翌日物金利に連動する資金調達と IBOR に連動する資金運用はいずれも変動金利に連動しているが、OIS と IBOR の間のスプレッドが変動するリスクにさらされる。このリスクをヘッジする手段として、運用が LIBOR に連動している 場合には OIS/LIBOR ベーシス・スワップが、TIBOR に連動している場合には OIS/TIBOR ベーシス・スワップの組合せが考えられる。

活用事例:デリバティブのディスカウント・リスクのヘッジ

担保(変動証拠金)付デリバティブ取引について OIS レートによるディスカウ ント・カーブで時価評価を行っている場合、自己ポジションに一致する年限の OIS により、ディスカウント・リスクをヘッジすることができる。

活用事例:カーブ・トレード

イールドカーブの形状変化を対象とする取引をカーブ・トレードと呼ぶ。 たとえば、イールドカーブのスティープ化やフラット化を想定した裁定またはリスクヘッジの手段として、年限と「受け・払い」の異なる OIS を、両年限の金利 (イールドカーブ)がパラレルにシフトした場合に損益ゼロ(デルタニュートラ ル)となるよう想定元本に差をつけた上で取引し、一定の時点で両方の OIS を反対取引(アンワインド)により解消する。


円OIS取引・計算方法






参考引用文献

広報誌「ファイナンス」 (mof.go.jp)

日本円OIS(Overnight Index Swap) (boj.or.jp)


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