銀行の流動性規制(LCR, NSFR)を整理

銀行業界では金融危機リスクを軽減するために、LCR(Liquidity Coverage Ratio)とNSFR(Net Stable Funding Ratio)が創設され、それぞれ2013年1月と2014年10月に承認されたバーゼルIII協定の一部となった。両比率は補完的に機能している。LCRの目的は、銀行の流動性リスクプロファイルの短期的な回復力を促進することであり、NSFRの目的は、より長い時間軸での資金調達リスクを低減することである。欧州でも2021年6月からNSFRがCRR2の枠組みで域内完全適用となった(Liquidity risk | European Banking Authority (europa.eu)。また、国際統一基準行では、2015年3月31日(英国では2015年10月1日)からLCRが、2021年9月30日からはNSFRが適用(英国では2022年1月)されている。本欄では銀行トレジャリー業務に必須となる2つのレシオについて(筆者自身の脳内整理とともに)解説する。

ポイント
LCRは分子が資産、NSFRは分母が資産
MT(短期のファンディング、長期の貸付)の是正

LCR(Liquidity Coverage Ratio)

銀行の流動性リスクプロファイルを測定するもので、銀行は、価値を全く、あるいはほとんど失うことなく、金融市場で容易かつ即座に換金可能な、高クオリティ流動資産を十分に保有すべきとされる。このカテゴリーには、例えば、中央銀行の当座預金、企業の約束手形などが含まれる。その目的は、30日間の金融ストレスシナリオにおいて、金融機関が必要とする流動性を確保することにある。

LCRは、銀行が保有する高クオリティ資産を、30日のストレスシナリオにおける推定ネットキャッシュアウトフローで除した割合である。 ネットキャッシュアウトフローは、予想されるキャッシュアウトフロー総額から予想されるキャッシュインフロー総額(予想される現金キャッシュアウトフロー総額の75%を上限とする)を差し引いたものと定義されている。キャッシュアウトフローは、負債(預金など)およびオフバランスシートのコミットメント(顧客に対するクレジットラインやリクイディティラインなど)の現在の残高に、前述のストレスシナリオにしたがって、それらが流出または引き出されると予想されるレートを乗じることによって算出される。

国際的に活動する銀行に求められる最低LCRは100%とされている。言い換えれば、高クオリティ資産額が、30日間のストレス期間中に予想される正味のキャッシュアウトフローの合計額と少なくとも同じ大きさでなければならない。(LCR100%最低要件は2019年1月1日から適用)

英銀の状況

英国の大手金融機関は、2020年、HQLA保有額を合計で1,404億ポンド(1,942億ドル)増加させ、平均流動性カバレッジ比率(LCR)は145%から150%に改善した。2020年末時点で、バークレイズ、HSBC、ロイズ、ナットウエスト、スタンダードチャータードは合わせて1兆1600億ポンドの高品質流動資産(HQLA)を保有しており、前年比で14%増加。

推定ネットキャッシュアウトフロー

特定のストレスシナリオにおいて、30日間に予想される総現金流出額から総現金流入額を差し引いたもの。予想キャッシュ・アウトフローの合計は、様々なカテゴリーまたはタイプの負債およびオフバランスシートのコミットメントの残高に、それらが消失または引き出されると予想される率を乗じて計算される。予想キャッシュ・インフローの合計は、予想キャッシュ・アウトフローの合計の75%を上限とし て、様々な種類の契約上の債権の残高に、シナリオのもとで流入すると見込まれるレートを乗じて計算する。いくつかのパラメータは、国レベルの監督当局が決定する。


各項目を二重計上することは許されない。すなわち、ある資産が「HQLAストック(分子)」の一部として含まれる場合、関連するキャッシュ・インフローを負債(分母)の一部として計上することはできない。ある項目が複数の流出カテゴリーにカウントされる可能性がある場合、(例えば、30日以内に満期を迎える負債をカバーするために付与されたコミット型流動性ファシリティ)、銀行はその商品に関する契約上の最大流出額までを計上する。

外貨建LCR

外貨建負債を合計して銀行の負債総額の5%以上である場合、別途、その通貨のLCRを計算しなくてはならない。なお、外貨建 LCR は基準ではなく、モニタリングツールであるため、国際的に定義された必要最低限の閾値は存在しない。しかし、各法域の監督当局は、外貨建て LCR に対して、注意喚起を目的に最低監視比率を設定することが可能である。

IV. LCR by significant currency


Article 21 Requirements for assessing the effect of collateral received in derivatives transactions 
Credit institutions shall calculate liquidity outflows and inflows expected over a 30 calendar day period for the contracts listed in Annex II of Regulation (EU) No 575/2013 on a net basis by counterparty subject to the existence of bilateral netting agreements in accordance with Article 295 of that Regulation. For the purposes of this Article, net basis shall be considered to be net of collateral to be received provided that it qualifies as a liquid asset under Title II of this Regulation. Cash outflows and inflows arising from foreign currency derivative transactions that involve a full exchange of principal amounts on a simultaneous basis (or within the same day) shall be calculated on a net basis, even where those transactions are not covered by a bilateral netting agreement.

Annex 25 (LCR).pdf (europa.eu)


350 1.4 FX-swaps maturing Total amount of cash outflows resulting from the maturity of FX-swap transactions such as the exchange of principal amounts at the end of the contract. 

360 1.5 Derivatives amount payables other than those reported in 1.4 Total amount of cash outflows resulting from derivatives payables positions from the contracts listed in Annex II of Regulation (EU) No 575/2013 with the exception of outflows resulting from maturing FX swaps which shall be reported in item 1.4. The total amount shall reflect settlement amounts including unsettled margin calls as of the reporting date

The total amount shall be the sum of (1) and (2) as follows, across the various time buckets: 

1. cash and securities flows related to derivatives for which there is a collateral agreement in place requiring full or adequate collateralisation of counterparty exposures, shall be excluded from the maturity ladder templates; all flows of cash, securities, cash collateral and securities collateral related to those derivatives shall be excluded from the templates. Stocks of cash and securities collateral that have already been received or provided in the context of collateralised derivatives shall not be included in the ‘stock’ column of section 3 of the maturity ladder covering the counterbalancing capacity, with the exception of cash and securities flows in the context of margin calls (‘cash or securities collateral flows’) which are payable in due course but have not yet been settled. The latter shall be reflected in lines 1.5 ‘derivatives cash-outflows’ and 2.4 ‘derivatives cashinflows’ for cash collateral and in section 3 ‘counterbalancing capacity’ for securities collateral; 

2. for cash and securities inflows and outflows related to derivatives for which there is no collateral agreement in place or where only partial collateralisation is required, a distinction shall be made between contracts that involve optionality and other contracts: 

(a) flows related to option-like derivatives shall be included only where the strike price is below the market price for a call, or above the market price for a put option (‘in the money’). These flows shall be proxied by applying both of the following:

 (i) including the current market value or net present value of the contract as inflow in line 2.4 of the maturity ladder ‘derivatives cash- inflows’ at the latest exercise date of the option where the bank has the right to exercise the option; 

(ii) including the current market value or net present value of the contract as outflow in line 1.5 of the maturity ladder ‘derivatives cash-outflows’ at the earliest exercise date of the option where the bank's counterparty has the right to exercise the option; 

(b) flows related to other contracts than those referred to in point (a) shall be included by projecting the gross contractual flows of cash in the respective time buckets in lines 1.5 ‘derivatives cash- outflows’ and 2.4 ‘derivatives cash-inflows’ and the contractual flows of liquid securities in the counterbalancing capacity of the maturity ladder, using the current marketimplied forward rates applicable on the reporting date where the amounts are not yet fixed

INSTRUCTIONS FOR COMPLETING PRA110 (bankofengland.co.uk)

HQLAの基本的な特徴 

低リスク:リスクの低い資産は流動性が高い傾向にある。発行体の信用度が高く、劣後性が低ければ流動性は高くなる。低いデュレーション、低いリーガル・リスク、低いインフレ・リスク、為替リスクの低い通貨建て資産は、流動性を高める。

評価の容易性と確実性:市場参加者がその評価に同意する可能性が高まれば、資産の流動性は向上する。より標準化され、均質でシンプルな構造を持つ資産は、流動性を促進する。流動性の高い資産の価格計算式は、計算が容易で、強い仮定に依存しないものでなければならない。また、プライシングの計算式への入力は一般に公開されていなければならない。この点から、ほとんどの仕組債やエキゾチック商品を含めることはできない。

リスク資産との相関が低いこと:HQLAは、誤った(相関の高い)リスクにさらされるべきではない。例えば、金融機関が発行する資産は、銀行セクターの流動性ストレス時に流動性が低下する可能性が高い。

先進的で認知度の高い取引所に上場していること:上場していることで資産の透明性が高まる。

HQLA市場に関する特徴 

活発で大規模な市場:常に活発な先物市場またはレポ市場を有していなければならない(以下参照)

- 市場の幅と深さを示す証拠:これは、低いビッド・アスク・スプレッド、高い取引量、および大規模で多様な市場参加 者数によって実証される。市場参加者の多様性は、市場の集中を緩和し、流動性の信頼性を向上させる。
 - 市場インフラ:複数のコミットメントされたマーケットメーカーの存在は、HQLA売買のために相場が利用可能である可能性が高く、流動性を増加させる。

低ボラティリティ:価格が比較的安定し、時間の経過とともに価格が急落する傾向が少ない資産は、流動性要件を満たすために強制売却が発生する確率が低い。取引価格のボラティリティとスプレッドは、市場ボラティリティの単純な代用指標で、ストレス期間の市場条件(価格やヘアカットなど)と取引量が相対的に安定していることを示す歴史的な証拠となる。

質への逃避:歴史的に、システミックな危機が発生すると、市場はこの種の資産に移動する傾向がある。市場流動性のプロキシと銀行システムのストレスの相関関係は、使用できる単純な尺度の1つ。

コミットメントラインおよび流動性ファシリティ

注意!!→NSFRはすべてのカウンターパーティのUndrawn credit facility を5%で計算するが、LCRではカウンターパーティ毎に分われる

Basel III: The Liquidity Coverage Ratio and liquidity risk monitoring tools (bis.org)

Basel III: the net stable funding ratio (bis.org)

HQLAの定義

含めることができる資産は、2つのカテゴリーに分類される。それぞれのカテゴリーに含めるべき資産は、残存期間にかかわらず、ストレス期間の初日に銀行が保有しているものである。「レベル1」の資産は無制限に含めることができるが、「レベル2」の資産はストックの40%までしか含められない。レベル2に追加的な資産クラス(レベル2B資産)を含めるこ ともできるが、含める場合、HQLA の総ストックの 15%以下でなければならない。また、レベル2資産の全体的な上限である40%以内に含まれなければならない。

レベル1資産

(a) 硬貨および銀行券

(b) 中銀準備金、中銀政策によりストレス時に取り崩すことができる範囲

(c) ソブリン、中央銀行、PSE、国際決済銀行、国際通貨基金、欧州中央銀行および欧州共同体、開発銀行に対する債権またはそれらが保証する証券で、以下のすべての条件を満たす市場性証券

- 信用リスクについて、バーゼルⅡの標準的手法に基づき 0%のリスクウェイトを割り当てられていること
 -集中度が低く、大規模で深みのある活発なレポまたは現金市場で取引されて いること
-ストレス下の市場環境においても市場(レポまたは売却)における信頼できる 流動性供給源として実績があり
-金融機関またはその関連団体の債務ではないこと。

(d) ソブリンのリスクウェイトが 0%でない場合、流動性リスクを負っている国のソブリンま たは中央銀行が自国通貨で発行したソブリンまたは中央銀行の債務証券、または銀行の自国通貨 で発行されたもの。

(e) ソブリンが0%以外のリスクウェイトを有している場合、外貨で発行された国の政府または中銀の債券は、銀行の流動性リスクを負っている法域における銀行の業務から生じる、当該特定の外貨での ストレス下の純キャッシュアウトの額を上限として適格である。

※ レベル1資産は、現在の市場価値を超えない額で測定される


(中銀準備金、中銀政策によりストレス時に取り崩すことができる範囲)



レベル2資産

レベル2資産はレベル2A資産と監督当局が認めるレベル2B資産から成る。ヘアカット適用後のストック全体の40%以下という要件のもと、HQLAのストックに含めることができる。

レベル 2A 資産は以下に限定される。
HQLAのストックに含まれる各レベル2A資産の現在の市場価値に対し、15%のヘアカットを適用する。
(a) ソブリン、中銀、PSE、開発銀行に対する債権で、以下の条件をすべて満たすもの。
 -信用リスクについて、バーゼルⅡ標準的手法の下で20%のリスクウェイトが付与されている
 -集中度が低いことを特徴とする、大規模で厚みがあり活発なレポまたは現物市場で取引されている
 -ストレス下の市場環境においても市場(レポまたは先物)における信頼できる流動性源として実績がある (著しい流動性ストレスを受けた関連期間の30日間における価格の最大下落率は10%、ヘアカット増加率は 10%以下)
-金融機関またはその関連団体の債務ではない
(b) 以下の条件をすべて満たす社債(コマーシャルペーパーを含む)およびカバードボンド(少なくとも AA- の信用格付を有する)
- 社債:金融機関またはその関連会社が発行していないこと 
-カバードボンド:銀行自身またはその関連会社が発行していないこと。

レベル2B資産は以下に限定される。

一定の追加的な資産(Level 2B assets)は、各国当局の裁量で Level 2 に含まれる可能性がある。また、これらの資産を保有することにより銀行が被る可能性のあるリスク (信用リスク、市場リスク等)をモニタリングし、管理するための適切な制度や手段を銀行が有していることが条件となる。HQLA のストックのうち、レベル 2B の各資産の現在の市場価値に対して、大きなヘアカット(25-50%)が適用される。

(a) 以下の条件をすべて満たす住宅ローン担保証券(RMBS)は、25%のヘアカットを条件としてレベル2Bに含まれることがある。
- 銀行自身またはその関連事業体によって発行されておらず、原資産もオリジネートされていない 
- ECAI(External Credit Assessment Institutions)のAA以上の長期信用格付、または長期格付がない場合は長期格付と同等の質の短期格付を有している
 - 大規模で厚みがあり活発なレポ市場または現物市場で取引されている
 - 銀行自身またはその関連事業体によって発行されたものではなく、原資産がオリジネートされていない 
- 流動性が著しく低下した関連期間に、30 日間の価格下落率が最大20%以下
- 裏付けとなる住宅ローンは「フル・リコース」ローン(差し押さえ時に不動産から得られる売却代金の不足分について責任を負う)で、発行時の最大融資比率(LTV)は平均で80%であること。

- 証券化商品(subject to “risk retention”)

(b) 以下の条件をすべて満たす企業債(コマーシャルペーパーを含む)は、50%のヘアカットを条件としてレベル2Bに含まれることがある。

- (i) A+からBBB-の間のECAIの長期信用格付、または長期格付がない場合は長期格付と同等の質の短期格付を有する、または (ii) ECAIの信用評価を有しておらず、A+からBBB-間の信用格付に相当するPDを有すると内部格付されている。
- 大規模で厚みのある活発なレポ又は現物市場で取引されている 
- 流動性が著しく低下した関連期間において、30 日間の価格の最大下落率が 20%以下又はヘアカットの増加率が 20% ポイント以下であるなど、市場がストレス状態にある場合でも市場における信頼できる流動性の源として実績がある 

- 流動性が低下した関連期間において、30 日間の価格の最大下落率が 20%以上であるなど、市場がストレス状態にある場合でも市場 (レポ又は売却)における信頼できる流動性の源としての実績がある 

(c) 以下の条件をすべて満たす普通株は、50%のヘアカットを条件としてレベル2Bに含まれることがある。
- 金融機関またはその関連事業体が発行していない 
- 取引所取引で集中決済型である 
- 本国法域または流動性リスクを取る法域の監督当局が決定する主要株価指数の構成銘柄である
- 銀行の本国法域の国内通貨建てまたは銀行の流動性リスクを取る法域の通貨建てである
- 銀行が流動性リスクを取る法域の国内通貨建て
- 大規模かつ深みのある活発なレポまたは現物市場で 取引されている

-ストレスのかかる市場環境下においても、市場において信頼できる 流動性の源泉として実績があること(流動性が著しく高い関連期間の 30 日間で、最大 40%を超えない株価下落または 40%を超えないヘアカットの上昇を経験していること)

為替リスク:流動性ニーズを満たすために使用される外貨建て HQLA は為替リスク を考慮し、主要通貨は最低 8%のヘアカットの対象とし、その他の通貨は、長期間にわたる通貨ペア間のヒストリカ ル(月次)変動率に基づき、ヘアカットを適切なレベルまで引き上げる 

Basel III: The Liquidity Coverage Ratio and liquidity risk monitoring tools (bis.org)




バーゼルIII :流動性リスク計測、基準、モニタリングのための国際的枠組み 仮訳案 (zenginkyo.or.jp)


LCRの想定シナリオ

本基準におけるシナリオでは、以下の事態を引き起こすような、各行固有のショックと市場全体のショックを併せて勘案

(a)リテール預金の一部流出

(b)無担保のホールセール調達余力の部分的な喪失

(c)確実な担保、カウンターパーティとの短期の有担保調達の部分的な喪失 

(d)格付の3ノッチ格下げや追加担保の差し入れを含めた銀行の外部格付の低下による、契約上の追加的な資金流出

(e)担保の質や、デリバティブに対する将来の潜在的なエクスポージャーに影響を与え、 さらに大きな担保のヘアカットや追加担保の差し入れ、その他の流動性要求に繋 がるような、市場ボラティリティの高まり 

(f)銀行が顧客に提供するコミットメントの未使用枠や信用・流動性ファシリティの予 定外の引出し 

(g)風評リスクの緩和を目的として銀行が契約外の債務返済や債務の買い戻しを行う 潜在的な必要性 

つまり、規定されたストレスシナリオは、銀行が 30 日間の暦日を乗り切るのに 必要な手許流動性を具体化するために、2007 年に始まった金融危機で見られた多く のショックを、1 つの急激なストレスとして集約したものである。

バーゼルIII :流動性リスク計測、基準、モニタリングのための国際的枠組み 仮訳案 (zenginkyo.or.jp)


NSFR(Net Stable Funding Ratio)

NSFRは、銀行に対し、オフバランスシートの資産および活動に関連して、安定した資金調達プロファイルを維持することを要求している。その目的は、銀行の資金調達活動に与えるショックが、銀行の流動性を低下させ、倒産リスクを高める可能性を低減することにある。NSFRは、銀行が資金調達ソースを多様化し、短期ホールセール市場への依存度を低減することを目的としている。

NSFRは、利用可能な安定的資金量と必要な安定的資金量の比率として定義される。利用可能な安定した資金とは、1年間の将来にわたって予想される自己資金および第三者資金の割合を意味する(顧客の預金および長期のホールセール資金を含む)。したがって、短期的なLCRとは異なり、この比率は銀行の中長期的なレジリエンスを測定するものである。各金融機関の安定調達要件は、バランスシートの資産の流動性と満期の特性、およびオフバランスシートのエクスポージャーに基づいて設定される。

バーゼルⅢでは、100%のNSFRを継続的に達成することが求められている。言い換えれば、利用可能な安定した資金と必要な安定した資金の額が等しくなければならない。EUも、CRR II の承認でこの要件を採用している(発効は2021年)。


BOE(PRA)レポーティングフォーマット

https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/prudential-regulation/regulatory-reporting/banking/corep-nsfr.xlsx

BOE(PRA)レポーティングインストラクション

Annex XIII: Instructions for reporting on stable funding (bankofengland.co.uk)

Simplified SA-CCR 

バーゼルの枠組みでは、カウンターパーティーリスクの算出に簡易アプローチは含まれていないが、CRR2には、予め定められた適格基準を満たす銀行に対して、簡易アプローチが含まれている。この規定は、欧州委員会の2016年の当初提案に沿ったものである。しかし、簡素化されたSA-CCRの使用条件は変更されている。この手法の利用は、オンバランスおよびオフバランスのデリバティブ事業の規模が金融機関の総資産の10%以下であること、2016年に提案された150 Mio ユーロと総資産の10%の基準ではなく、300 Mio ユーロが(英国では10%&263Mio)条件となる。つまり、この簡便なアプローチは、当初提案されたよりも規模の大きいオン・アンド・オフ・バランス・デリバティブ事業を行う企業にも適用されるようになる。

各国所轄庁(NCA)による監督上の承認が必要となり、NCAは、これらの基準に対して調整を行うことができる。

英PRA

CP5/21 'Implementation of Basel Standards' (bankofengland.co.uk)

2020_New_Challenge_on_SA-CCR_!!_an_Overview_on_Implementation_Process.pdf (iasonltd.com)


Basel III: The Liquidity Coverage Ratio and liquidity risk monitoring tools (bis.org)

ASF計算方法(分子、負債・資本)

NSFR の分子にあたる利用可能な安定調達額(ASF:Available Stable Funding)は、銀行の資 本・負債の帳簿価額(carrying value)に、調達の安定性に応じた掛目を乗じることによって 計測される。 利用可能な安定調達額(ASF)の掛目には、「100%」、「95%」、「90%」、「50%」、「0%」の 5 種類がある。掛目が大きい(ヘアカットが小さい)項目ほど、調達の安定度合いが高く、流動性の源となるということになる。

利用可能な安定的な資金調達(ASF)の額は、金融機関の負債の契約満期や、異なるタイプの資金提供者が資金を引き揚げる傾向の違いなど、資金源の相対的安定性に関する幅広い特性に基づいて測定される。

次に、各カテゴリーに割り当てられた金額にASF係数を乗じ、加重平均した金額がASFの合計となる。


※ 利用可能な安定調達額(ASF)の項目の満期を決定するにあたっては、投資家によるコ ール・オプションの行使は、可能な限り早期に行われるものと想定する。銀行の裁量により行 使可能なオプション付の資金調達については、監督当局は、当該銀行のオプションの不行使を 妨げる評判的要素(reputational factors)を考慮する(オプション行使日による機械的な満 期判定はしない)。
※ 負債を長期と認定するにあたっては、対象期間(time horizon) のうち 6 ヶ月以降又は 1 年以降のキャッシュフロー部分のみ、それぞれ実効残存期間(effective residual maturity)6 ヶ月以上又は 1 年以上とすることができる

ASF係数100%:負債・資本 

100%のASF係数を受ける負債および資本は、以下のもので構成される。

(a) バーゼル III テキスト第 49 項に定義される資本控除適用前の規制資本の合計額(残存期間が 1 年未満の Tier 2 商品の比率を除く)。

(b) (a)に含まれない資本性金融商品のうち、有効残存期間が1年以上のものの総額。ただし、行使された場合に予想残存期間が1年未満に短縮される明示的または埋め込み式のオプションを有する金融商品は除く。 

(c) 有担保、無担保の借入金、負債(定期預金を含む)のうち、有効残存期間が1年以上のものの総額最終満期が1年超の負債から生じる1年未満のキャッシュ・フローは、100%ASF係数の適用対象とはならない

ASF係数95%の負債は、法人顧客預金で「安定的」(LCR75-78項で定義)な無担保(要求払い)預金及び/又は残存期間1年未満の定期預金である。

LCR75-78項


ASF係数90%の負債は、「安定性が低い」(LCR79~81で定義)無担保(要求払い)預金及び/又は個人・中小企業顧客による残存期間が1年未満の定期預金である。

LCR79~81

ASF係数50%を適用する負債は、(a) 非金融法人顧客による残存期間1年未満の資金調達(有担保・無担保)、(b) 営業預金(LCR 93~104項に定義)、(c) ソブリン、公的機関(PSE)、多国間・国家開発銀行からの残存期間1年未満の資金、 (d) 中央銀行や金融機関からの資金を含む残存期間6ヶ月以上1年未満の上記に含まれないその他の資金(有担保・無担保)、である。

LCR73~75

ASF係数0%の負債は、以下の4つ

(a) 中銀および金融機関からの残存期間が6ヶ月未満のその他の資金調達など、上記のカテゴリーに含まれないすべてのその他の負債および資本

(b) 満期が明記されていないその他の負債。このカテゴリーには、ショートポジションおよび満期未到来のポジションを含めることができる。満期が明記されていない負債については、2つの例外を認識することができる。- 1つ目は、繰延税金負債で、そのような負債が実現する可能性のある最も近い日付に従って処理される。

(c) NSFR19および20項に従って計算されたデリバティブ負債と、34および35項に従って計算されたNSFRデリバティブ資産を差し引き、NSFRデリバティブ負債の方がNSFRデリバティブ資産を上回っている場合。

(d)金融商品の購入から生じる「取引日」支払債務で、(i)当該取引所または取引の種類に応じた標準的な決済サイクルまたは期間内に決済されると見込まれる、または(ii)決済されなかったが、決済されると見込まれるもの。


RSF計算方法(分母、資産)

NSFR の分母にあたる所要安定調達額(RSF:Required Stable Funding)は、資産の帳簿価額 (carrying value)、及びオフ・バランスシートのエクスポージャーの未使用額に、流動性リス クに応じた掛目を乗じることによって計測される。 所要安定調達額(RSF)にあたる資産の掛目には、「0%」、「5%」、「10%」、「15%」、「50%」、 「65%」、「85%」、「100%」の 8 種類がある。掛目が大きい(ヘアカットが小さい)項目ほど、 流動性リスクが高い(流動性を生むことが期待できない)ということになる。 所要安定調達額(RSF)にあたる資産の満期を決定するにあたっては、投資家は満期を延長するためのあらゆるオプション(ロールオーバー等)を行使するものと想定する。銀行の裁量に より行使可能なオプション付の資産については、監督当局は、当該銀行のオプションの不行使 を妨げる評判的要素(reputational factors)を考慮する(オプション行使日による機械的な 満期判定はしない)15。分割償還型の貸出(amortising loans)については、1 年以内に期限が 到来するものはそのまま「残存期間 1 年未満」と扱うことが認められる。 所要安定調達額(RSF)を決めるにあたって、取引日と決済日が異なる短期取引(直物為替、 有価証券売買等)は、取引時点で決済されたと見なして取扱う

BISのRSFカテゴリー


RSF係数0%を割り当てられた資産 
(a) 債務を履行するために直ちに利用可能な硬貨および銀行券。 
(b) 中銀準備金(必要準備金および超過準備金を含む)
(c) 残存期間が6ヶ月未満のすべての中銀債権
(d)金融商品、外国通貨、およびその他の商品の販売から生じる「取引日(T+0)」債権 (i)標準的な決済サイクルまたは期間内に決済されると予想される商品。 または、(ii)取引に失敗したが、まだ取引されている。 決済される見込み

5%のRSF係数を割り当てられた資産は、LCR50項に定義された、担保のないレベル1資産で、上記のように0%のRSFを受け取った資産を除き、以下を含む。

- ソブリン、中央銀行、PSE、国際決済銀行、国際通貨基金、欧州中央銀行、欧州共同体、開発銀行に対する債権またはそれらによる保証付債権で、バーゼルⅡの信用リスクに関する標準的手法においてリスクウェイトが0%である市場性証券、および - LCRに規定されているリスクウェイト0%ではないソブリンまたは中銀の債務証券。

10%のRSF係数を割り当てられた資産は、金融機関に対する残存期間が6ヶ月未満の無担保貸付金で、貸付金がLCR第50項に定義されるレベル1資産に対して担保されており、銀行が受け取った担保を貸付期間中自由に再担保する能力を有しているもの。

15%のRSF係数を付与された資産は (a) LCR第52項に定義される抵当権が設定されていないレベル2A資産で、 (b) それに含まれない、残存期間が6ヶ月未満の金融機関に対するすべての抵当 権の設定されていない貸付金

RSF係数50%の資産は、(a) LCR54項に定義され、条件付で譲渡されていないレベル2B資産(以下を含む)。

 (a) AA以上の信用格付を有する住宅ローン担保証券(RMBS)、  A+からBBB-までの信用格付を有する社債(コマーシャルペーパーを含む)、  金融機関またはその関連会社が発行していない上場普通株式、 
(b) LCRに定義されるHQLAで残存期間が6ヶ月以上1年未満のもの
(c) 金融機関および中銀に対する全ての貸付金で残存期間が6ヶ月以上1年未満のもの
(d) LCR パラグラフ 93~104 で説明されている、業務目的で他の金融機関に預けられている預金で、パラグラフ 24 (b) の 50%の ASF 係数が適用されるもの、および
(e) 上記のカテゴリーに含まれない、残存期間が 1 年未満のすべての非 HQLA(非金融法人顧客向け融資、個人顧客(すなわち自然人)および小企業顧客向け融資、ソブリンおよび PSE への融資を含む)。

RSF係数65%が割り当てられた資産は (a) 残存期間が1年以上で、信用リスクに関するバーゼルⅡの標準的手法のもとで35%以下のリスク・ウェイトに 適合する抵当権が設定されていない住宅ローン、および (b) 上記カテゴリーに含まれない、残存期間が1年以上で、信用リスクに関するバーゼルⅡの標準 的手法のもとで35%以下のリスク・ウェイトに適合する金融機関向け貸付金を除いたその他の無担保貸付金

RSF係数85%を付与した資産は(a) 現金、デリバティブ契約のイニシャルマージンとして計上された証券またはその他の資産 、および中央清算機関(CCP)のデフォルトファンドに拠出するために提供 された現金またはその他の資産。デリバティブ契約の当初証拠金として計上された証券またはその他の資産が、他の方法で高い RSF ファクターを受け取る場合、その高いファクターを維持する必要がある。デリバティブの証拠金および決済に関連する規制の実施状況を踏まえ、バーゼル委員会は、NSFRにおける証拠金の取り扱いを引き続き評価する予定である。この間、バーゼル委員会は定量的な分析を行い、必要かつ適切であれば、代替的な アプローチを検討する予定である。(b) 信用リスクに関するバーゼルⅡの標準的手法において 35%以下のリスクウェイトに該当せず、残存期間が 1 年以上のその他の担保付き債権 (金融機関向け債権を除く) (c) デフォルト状態ではなく、LCR に従って HQLA として適格でない残存期間 1 年以上の担保なし証券および取引所取引株式 (d) 金を含む取引所取引現物商品。

100%のRSF係数を付与された資産は、(a) 1年以上の担保付資産 (b) パラグラフ34および35に従って算出されたNSFRデリバティブ資産と、以下に従って算出されたNSFRデリバティブ負債を差し引いたもの(NSFRデリバティブ資産がNSFRデリバティブ負債より大きい場合)



(c) 上記カテゴリーに含まれないその他のすべての資産(不良債権、残存期間が1年以上の金融機関向け貸付金、取引所取引以外の株式、固定資産、規制資本から控除される項目、留保金利、保険資産、子会社持分、デフォルト証券を含む)、及び デリバティブ負債(すなわち負の再調達原価金額)の20%



Basel III: the net stable funding ratio (bis.org)


現地法人ではない外銀ロンドン支店の扱い

英金融監督当局 PRAは、第三国の金融機関支店が、自国の監督当局(Home State Supervisor:HSS)に報告されたデータに基づき、会社全体のレベルでの流動性情報(LCR)を提出すること要求している。データは、6月30日および12月31日の報告期間(EORP)に基づき、半期ごとにPRAに提出されなければならない。

SS1/17 'Supervising international banks: the PRA's approach to branch supervision - liquidity reporting' - December 2020 (bankofengland.co.uk)



参考:

Basel III: the net stable funding ratio (bis.org)

Liquidity and funding permissions | Bank of England

Asset and liability management: suggestions for greater effectiveness (bankofengland.co.uk)

安定調達比率(NSFR)(バーゼルⅢ) (dir.co.jp)

安定調達比率規制(バーゼル規制関連)の導入 (dir.co.jp)

安定調達比率(Net Stable Funding Ratio:NSFR) 最終規則の概要 2015年2月 金融庁/日本銀行(fsa.go.jp)

PS17/21 'Implementation of Basel standards' (bankofengland.co.uk)

PS22/21 - Implementation of Basel standards: Final rules | Bank of England

Time to prepare for finalised CRR 2 and CRD 5 (pwc.com)

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