ターゲット・リデンプション・フォワード(TARF)と欧州規制当局の目

市場レートよりも有利なレートで取引を約定したい、という願望は市場参加者全員が持っているものであろう。そこで、為替市場において改善されたレートで取引を約定したい場合に使われるオプションストラクチャーの中でも有名なTARFを紹介し、その上で、欧州で形成されるTARF批判をざっくり解説する。

ターゲット・リデンプション・フォワード(TARF)

TARFは、ストラクチャー保有者が複数の行使日(一般的に月次ベース)で、改善されたレートで通貨を購入または売却できるプレミアムゼロのオプション戦略である。この戦略の特徴は、エンハンスメントされたレートでの決済額が目標レベルに達すると自動的に消滅する点にある。また、スポットが特定の方向に動いた場合、保有者は不利なレートで定期的に取引することを余儀なくされる可能性がある。つまり、TARFは、為替リスクを最小限に抑えたい投資家にとって適切なヘッジ手段ではない。

仕組みとしては、同じ権利行使価格のコールのストリップを買い、プットのストリップを売る(またはその逆)ことによりストラクチャリングされる(レバレッジあり)。また、決済総額が目標レベル(キャップ)を超えると、ストラクチャーが自動終了(リデンプション)するという要件によって制限される。これにより、投資家はパーティシペーション・フォワードよりも優れたヘッジレートを得ることができる。

決済は、ストラクチャーの満期時まで積み上げて(アキュムレート)デリバリーすることも、各レグ毎にデリバリーすることも可能である。なお、アキュムレート型でターゲット・リデンプションがない場合の戦略をアキュムレーティング・ブースト・フォワード(ABF)と呼ぶ。

より堅実に為替リスクをヘッジしたいと考えている投資家は、バニラタイプかシンセティック・フォワードのようなストラクチャーを選ぶべきであるが、予算通りのレートでヘッジできなかったり、諸事情によって、どうしてもエンハンスメントしたレートで取引を約定する必要性に迫られる場合、TARFのようなプロダクト(起死回生の博打?)を締結することによって、リスクをとりつつ約定レートを改善することができる。つまり、それほど追い込まれないと手を出さない、最後の手段ともいえる。当然、リスクを取らず改善レートを取得できるなど、うまい話などない。悪しからず。


悲しそうにブランコに乗る会社員のイラスト(女性)

欧州で形成されるアンチTARFの世論

欧州では、ドイツ銀行がスペインでTARFを筆頭に不必要に複雑な通貨オプションストラクチャーを中小企業に販売したとして規制当局から調査を受けている(Deutsche Bank under pressure over derivatives sales in Spain | Financial Times (ft.com))。欧州規制当局としても、MiFiDⅡで「複雑なデリバティブを小規模な企業に販売することを禁止した」との建前があるため、欧州のトップ行がMiFiDⅡ後も販売慣行を変更しなかったとなればよろしくない。ドイツ銀行自身も「プロジェクト・ティール」というコードネームで内部調査を開始したり、責任者の特定と影響の吟味を急いでいる。ドイツ銀行によると、スペインでの20年に及ぶデリバ商品販売の中で、多くとも10件の誤販売に関する訴訟があったとのこと。銀行側の主張としては「TARFはそれほど複雑なストラクチャーではない」というものだが、現場のトレーダー感覚的には複雑な(煩雑な)通貨オプションの部類に入るとの見方が一般的と感じる。また、規模の大きな投資家ほどシンプルなストラクチャーを好むのに対し、規模の小さい投資家ほどTARFのような複数のストリップの複雑な(煩雑な)戦略を仕組む傾向があるとも感じる。

各紙もにぎわっており、顧客の「理解できない高度なデリバティブ商品を売りつけられた」という苦情が多々掲載されている。このようなデリバティブ批判の記事は日本でもリーマンショック後に企業の財務状況が逼迫した状況で見られた流れで、よくある光景ではあるのだが、このご時世、ストラクチャラーが欧州において当局から名指しされたTARFを仕組む場合は、一段の規制リスクを意識すべきである。

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