流動性リスク

 


銀行の流動性リスクって何?

流動性、すなわち資産の増加に対応して資金を調達し、期限が到来する債務を履行する能力は、いずれの銀行にとっても存続していくうえで必要不可欠なものである。従って、流動性管理は銀行が行う業務の中で最も重要なものの一つである。

流動性リスクが顕在化する兆候は、市場性資金や各種取引の ロールオーバー不調や、取引レートの上昇などの形で現れることが多い。

資金調達環境が急速に悪化した場合、金融機関は状況の 変化に応じて、追加的な資金調達や保有資産の売却等の踏み込んだ対策を迅速に行う必要がある。

様々なシナリオのもとで想定される資金流出に 対して、どのような流動資産をどの程度保有する必要がある かを、流動性ストレステストを定期的に実施することによって 的確に把握しておくことが重要である。


予期せぬ資金流出 

資金調達にかかる要因

  • 金融機関の信用力悪化に起因する預金の流出
  • 金利変動を受けた預金の預け替え
  • 預金者の資金ニーズにもとづく想定以上の預金取り崩し
  • 新規資金調達の困難化
  • 金融市場の機能低下に伴う市場調達の困難化
  • 金融機関の信用力悪化に起因する新規調達力の低下

資金運用にかかる要因

  • 市場運用や貸出の回収不能
  • 市場運用の失敗や貸出先の破綻に伴う資金の回収不能
  • 予期せぬ資金運用の増加
  • コミットメントライン契約にもとづく多額の資金の引き出し
  • 保有資産の市場流動性低下
  • 保有資産の売却可能性の低下保有資産の売却価格の大幅下落
  • 担保としての適格性の喪失
その他の要因
  • 事務事故等に起因する取引相手からの入金の不調 
  • 自行コンピュータ・システムのトラブル
  • 決済システムのトラブル

流動性資産
第1線準備 = 当日中に資金化可能 
  • 現金(除く小切手・手形) 
  • 日銀預け金
  • 他行庫、信金中金預け金(為決担保等の拘束分除く)
  • コール・ローン
  • 有担コール
  • 日銀担保余裕額
  • 未使用振決国債
  • その他
第2線準備 = 1週間以内に資金化可能
  • 流動化可能債券
  • 担保追加差入可能額
  • 上場株式
  • 投信
第1、2線準備保有以外の検討事項:① 資金調達力の強化 ― 資金調達先の拡充、長期化 ― 調達金利の弾力的対応(高目レートでの調達) ― グループ内・親密先からの調達強化 ― エマージェンシーラインの活用 ― 預金の増強 ② 担保繰りの見直し ― 追加差入れ可能な担保の洗い出し・積み増し ③ 資金運用の抜本的な見直し ― 有価証券の売却(1線・2線準備を除く) ― 貸出の圧縮

緊急時における対応
金融機関の資金調達環境は、急速に変化することがありうる。 状況変化への対応を迅速に実行するため、金融機関には「緊急時対応計画」(コンティンジェンシー・プラン)を策定し、平時から 準備しておく。 「緊急時対応計画」(コンティンジェンシー・プラン)は、 ①逼迫度に見合った管理体制に移行する仕組みと ②流動性面での制約の強まりを業務運営に反映する仕組み を含む、実効性のあるプランとする必要がある。訓練の実施により、 「緊急時対応計画」(コンティンジェンシー・プ ラン)の実効性を定期的に検証することも重要。




流動性リスク管理指標
レガシー管理体制:英金融庁

ホールセールギャップ
流動性ガイドライン1 の一環として、FSA は流動性メトリック・モニター(LMM)を公表。LMMに記載されているギャップは包括的なものであり、銀行が流動性リスクを監視・管理するために利用することができる。様々な期間におけるインフロー(資産)とアウトフロー(負債)のミスマッチ「GAP」は、潜在的な流動性リスクを特定し、満期変換が企業の流動性に与える影響を分析(具体的には下表の基づいて)できる。


担保なしホールセール残存日数(GAP1):銀行がホールセール流出をカバーするのに十分な累積ホールセール流入がある日数
流動性の高い担保を使用したホールセール存続日数(GAP2):流動性の高い担保を売却した後、銀行がホールセールからの流出をカバーするために十分な累積流入額を有する日数



流動性資産の適格性:
中銀準備金の適格性を検討する際には、中銀ごとの特殊性を考慮することが重要である。例えば、任意の準備制度を設けている場合と、強制的な最低準備金を設けている場合で流動性資産としての取り扱い異なる。強制的な最低準備金の場合、銀行は準備金が利用可能な期間を考慮する必要がある。短い時間軸(すなわち、少なくとも1週間)の場合、準備金を含む中央銀行のO/N現金保有額全体を流動性バッファに含めることができる。しかし、準備金規制に明確なメカニズムがない場合、銀行は行動計画を策定しトリガーポイントを定義するべきである。長い時間軸(少なくとも1ヶ月)で必要準備金が設定されている場合は、準備金を上回る余剰現金のみを含めることができる。(Guidelines-on-Liquidity-Buffers.pdf (europa.eu).60)


英金融庁ホールセールギャップ報告強化
各国当局の権限により、流動性規制はカスタマイズされており、ホールセールギャップの計算上、報告義務があるファンディングアイテム等がある。英金融庁では以下のような項目を報告させモニタリングしている。Type B フローはホールセールギャップ1&2に含まれない。

Part 7 Other liability cash flows

バーゼル規制
バーゼル委員会は、流動性の監督に関する作業において、銀行がグローバル・ベース、かつ連結ベースで流動性を管理する方法について更に理解を深めることに努力してきた。1992 年 9 月に「流動性の測定および管理のためのフレームワーク(“A framework for measuring and managing liquidity”)」が公表されて以降、銀行の流動性管理の標準的な実務が変化してきたという事実に照らし、バーゼ ル委員会は次々と流動性リスク管理指標を打ち出してきた。

流動性カバレッジ比率( LCR ) 
個別行および市場における厳しいストレスが 1 か月間続いた場合、 に発生し得る資金流出額を上回る高品質の流動資産を常時保有する ことを求めるもの


安定調達比率( NSFR )
運用資産(オフバランス含む)との見合いで生じ得る要調達額より も多い、安定的な資金調達額(自己資本、満期まで 1 年以上の負債等)の確保を求めるもの

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