銀行ALMの要、FTPを整理

ALMの観点で定量的に銀行全体の金利リスクと収益のバランスをマネジメントするには市場金利のイールドをそのまま使うというわけにはいかない。なぜなら、伝統的な銀行プロダクトの多くは、金利リスクに加え、信用リスクや流動性リスクに直面しているからだ。また、多くの商品には、前払いや引き出しのオプション性が埋め込まれている。債券投資において最適化を実現しても、銀行・金融機関全体として最適になっている保障はない。銀行はバランスシート上、債券ポートとは別に預金・貸金ポートを持っている。具体的にはプライシングリスク、ベーシスリスク、流動性リスク、為替リスクなどを各行のバランスシートの性質を考慮したイールドが必要となる。この観点から銀行ALMでは古くから定量リスク管理指標としてFTP(Funds Transfer Pricing)が存在する。

FTPは顧客取引やマーケット取引など個々の取引が、その裏付けとなる資金調達・運用コストと比較して効率的に行われているかを分析するために用いられる。FTP によって、預金およびローンの収益性区分 (FTP レート、ファンドの原価、ネット利子収入 (NIM)、および正味利息収入 (NII) など) を構築および評価することにより、銀行の預金増加 (借入) および資金調達 (貸付) 事業単位のパフォーマンスが測定される。

FTPは新しい概念ではないが、金融危機後、銀行の調達コストの増加が商品に織り込まれていないことが明らかになり、再び注目されるようになった。

BISの調査(2011)では大手銀行、特に大規模なトレーディング事業を展開している銀行の多くが、個々の事業のバランスシートを把握しておらず、個々のトレーディングデスクの資金需要を把握することができていないことが浮き彫りとなり、その結果、トレーディングおよび投資銀行業務に必要な資金は、関連する全業務部門の純資金需要の合計に基づいて調達されていた。つまり、この方法は、本質的にトレーディング・ブックに与信枠を与えるものであり、事業活動に内在する流動性リスクを考慮するものではなかった。また、調査に参加した大規模なトレーディング事業を行う銀行は、保有するトレーディング資産の多くに不十分なヘアカットを適用していた。これらの銀行は、市場の混乱が起こる可能性や、市場の流動性がどの程度失われるかを明らかに過小評価していたと結論付けられた。潜在的なマージンコール、流動性コストについて、銀行が必要性を真剣に捉えてなかったことになる。

英国でも金融危機時に高騰した長期ホールセール調達コストに対し英銀の新規住宅ローン融資にコストが転嫁されていなかったことが問題になった。

このミスプライシング等をきっかけに、いくつかの規制当局がFTPをテーマとしたコミュニケーションを発表。しかし、金融危機後の他の規制が規範的であるのに比べ、FTPに関する指示はハイレベルなぼんやりとしたものにとどまっている。例えば、英銀を規制する英健全性規制庁(PRA)は、監督上のレビューの重要な側面としてFTPに言及しているものの、ハンドブックの中でFTPに言及しているのは(たったの)1行である。FRBも同様にFTPに関するペーパーを発行しているが、いずれも要件というよりはガイダンスという位置づけである。

したがって、銀行がALM上、FTPのフレームワークを設計する際には、幅広い権限が与えられていると解釈することができる。かかる中、本欄ではFTPに関する論点をなるべく広範に整理する。


流動性コスト

流動性プレミアムとは、時価で容易かつ効率的に現金化できない資産への投資するために必要とされる追加的なコストである。

流動性リスクに関するバーゼルⅢ規制もあり、FTPを通じて流動性リスクのコストをプライシングすることが広く行われるようになった。銀行が予想信用損失や資本の機会費用をプライシングするように、流動性のプライシングも流動性の供給者にインセンティブを与え、その利用者にチャージする形で行われるべきであろう。銀行の(資金移動)プライシングに流動性リスクを含めることは、規制上の要件でもある。特にバーゼル委員会(2008)は、銀行はすべての重要な業務について、商品価格設定、パフォーマンス測定、新商品の承認プロセスにおいて、流動性のコスト、メリット、リスクを組み入れるべきであると明記している。CEBS(2010)も、銀行が流動性リスクのプライシングに関する健全な慣行を構築する必要性に着目している。

2007年以前は、多くの銀行が長期資金調達コストとリスクフリーレートの差はごくわずかでだったが、金融危機でこの差は無視できないものとなり、現在に至っている。期間流動性プレミアム(TLP)を正しく商品に組み込むことは、多くの銀行にとって重要な課題となっている。

以下のチャートは、ムーディーズ・アナリティックスが業界の専門家160人を対象に行った調査の結果で、FTPに組み込むべきリスクとして検討されている要素の範囲を示している。この中でも突出しているのがTLPで、プライシングに考慮すべき最も重要なリスクの1つと見なされている。

しかし、TLPの概念自体が重要視されていない銀行もあり、そのような銀行は2つのカテゴリーに分類される傾向がある。第一のカテゴリー は、市場金利、リテール預金、またはその両方、および貸出金利が政府の重い介入を受けている法域で事業を行う銀行である。このような法域の銀行は、金利が規定され、頻繁に変更されないため、コストを移転するためのFTPメカニズムにメリットを見出せないことが多い。第二のカテゴリーは、主に非ホールセール部門から資金を調達している銀行である。このような銀行は、ベーシス、オプション、為替リスクなど、他のリスクをプライシングする目的でFTPに価値を見出す可能性がある。

流動性コストについてはBISからガイダンス(Liquidity transfer pricing: a guide to better practice (bis.org))が出ているので参照されたし。

満期変換(maturity transformation)

銀行のバランスシートは、長期貸付金(資産)を短期預金(負債)で資金調達を行っており、このプロセスは一般に「満期変換(maturity transformation)」と呼ばれている。(スワップの受けと類似)


(参考)業態別のBS期間構造

「期間ミスマッチ」は資産と負債の平均残存期間の差
資産の平均残存期間は、貸出、債券、金利スワップ受分の加重平均値
負債の平均残存期間は、調達、金利 スワップ払分の加重平均値
2018 年度の計数は 2018 年 12 月末の値

日本では地域銀行は金利スワップを払うことにより保有している債券やローンの有する金利リスクを低下させているが、大手行の場合は、金利スワップが債券と同程度の金利リスク量を有していることがわかる。これはつまり、大手行は国債への投資と並行してスワップを受けることで金利リスク量を増やしており、いわばトレーディングのような形で金利スワップを活用している。


この性質が、流動性リスクに対して銀行を脆弱にしている。商品価格設定、新商品承認プロセス、収益・業績評価において、流動性のコストを考慮できていない銀行は、長期の非流動性資産、偶発的なコミットメント、短期の変動性負債を大量に抱え込み、資金不足に対する脆弱性を大幅に高める。こうしたビジネスモデルに銀行業を発展させた要因の一つが、保有資産に内在する流動性リスクに対し銀行がペナルティを課せず、またオフバランスシートのエクスポージャーとして多額の偶発的流動性リスクを蓄積させたことである(不十分なTLP管理実務)。

これらの銀行は、金融危機前に見かけ上の巨大な利益を上げていたが、これらの利益は極めて脆弱な流動性アレンジメントによるものだった。このようなアレンジメントを“Zero” cost of funds approach という。

参考)生保のデュレーションギャップ

生保や銀行のバランスシートの規模やそれが有する金利リスクなどに応じて短期債と長期債の投資意欲が異なってくる。そのため、市場参加者との対話などを通じ、金融業界における銀行や生命保険の規模や調達構造を把握しておくことは、債務管理当局がどのような年限の国債を発行するかを考えるうえで重要になる。例えば、英債務管理当局は各国に比べて年限の長い国債を発行している。その一因として、英国の年金において、リスク管理の観点で年限の長い国債のニーズが高いことが背景にある。

“Zero” cost of funds approach 

流動性調査で明らかになった不適切な慣行の最も顕著な例は、一部の銀行が事業活動のすべて、あるいは一部において、流動性コスト、リスクを考慮していなかったことである。こうした銀行は、資金調達の流動性は基本的にフリーであり、リスクはゼロであると整理していた。これは間違いなく、今回の調査で確認された中で最も悪い慣行であった。

以下の図は、これが実際にどのようなものかを図式化したものである。この例では、資金利用者に課される金利はスワップ曲線のみから導き出されている。スワップ・カーブを用いて金利リスクが適切に計上されていると仮定すれば、スワップ・カーブより上のスプレッドがゼロ=流動性コストがゼロと整理していることを意味する。このアプローチは,長期的で流動性の低い資産をため込み,資金需要に対応するための長期安定負債をほとんど持たないという結果を招いた。


※スワップ曲線は、金利スワップ、変動金利に基づくインプライドのイールドカーブである。スワップ曲線とイールドカーブ(LIBORなど)の差は、流動性リスクを示唆する。

流動性プレミアムとしてのスワップ・スプレッド
金融機関の信用リスク以外にもスワップ・スプレッドに与える要因はある。例えば、国債金利やスワップ・レートは流動性にも依存するため、流動性の変化によってもスワップ・スプレッドは変動する。特に、リスクフリーレートは多くの投資家に保有されていることに加え、制度的にも流動性を高めるための措置が多数とられているため、金融危機時には安全資産としての需要が増える。さらに、例えば担保・決済需要等の関係で利回りと関係なく保有されることもある(実務的には担保としての需要であることから担保玉などといわれる)。実証研究でもスワップ・スプレッドと流動性に関係性があることが示されている。

金融危機前の銀行の多くが流動性リスクを実質的にゼロと見なした理由の一つに、1年物 LIBOR/スワップ・スプレッドがある(スワップ金利=LIBORと現在価値が等しくなるような固定金利)。危機前の資金調達状況を見ると、2005年6月はスプレッドがわずか0.5ベーシスポイント(bps)で資金調達条件があまりに容易だった。そのため、銀行はスプレッドを純粋な信用リスク調整とみなし、資金調達の流動性リスクを完全に無視していたと思われる。

(寄り道)金融危機前のスワップスプレッド(負のスプレッド)
金利スワップがLIBOR をインデックスにしている以上、金利スワップには信用リスクが含まれる。流動性についても国債の方が高い局面が少なくありません。そのため、理屈上はスワップ・レートのほうが国債金利より高くな るはずであり、スワップ・スプレッドはプラスになるはずである。しかし、チャートを見ると、金融危機前にはスワップ・ス プレッドが負に推移している局面があった。これは市場に十分な裁定が働いていないことから超過収益が放置されていたとみることもできる。経済学者もこの状況は市場で裁定取引がなされていない可能性を示唆しており、理論的に説明が困難な現象と指摘されている。Klingler and Sundaresan(2019)は年金がリスク管理の観点でスワップを活用する点に着目しており、その需要によりスワップ・スプレッドがマイナスになる可能性について分析している。年金はその性質上、負債サイドに長 い期間の契約を結ぶが故、負債側のデュレーションが長くなるが、資産サイドのデュレーションを合わせるため、年限の長い金利スワップをレシーブすることでALMに取り組んでいる。(金利スワップでは、固定金利を主語に、「受ける・払う」という形で固定金利と変動金利の交換を描写することが一般的。固定金利を受けて変動金利を支払うことを、レシーブするといい。固定金利を払い、変動金利を受け取ることを固定金利を払うことを、ペイするという。スワップを受けることを、「オファーする」、「ユアーズ」、スワップを払うことを「ビッドする」、「マイン」ともいう。)

このように投資家がバランス・シートの拡大に制約を有することから、裁定取引が限定的になり、需給要 因が金利の期間構造に影響を与える分析は近年活発になされている。

Pooled “average” cost of funds approach
一部の銀行は、流動性を請求する必要性を認識し、pooled approachを採用している。これは、既存のすべての資金調達源の支払利息(資金コスト)に基づいて平均レートが算出され、例えば、預金が銀行の唯一の資金源である場合、平均金利は、すべての預金の支払利息の合計を平均預金総額で割り、フロートと必要準備金を調整したものとなる。このアプローチは、ゼロ・コスト・オブ・ファンズ・アプローチよりもはるかに優れているが、算出される「平均」レートは1つだけなので、以下の図に示されるように、満期に関係なくすべての資産が資金使用に対して同じレート(流動性コスト)が課されることになる。


平均法には以下のような利点がある

①すべての資産にかかる資金調達コストを平均化することは、契約上または行動上の(予想)満期に基づいて個々の資産、商品または取引ごとにチャージするよりもはるかに単純である
②平均的な資金コストのアプローチは単純であるため、事業部門が LTP プロセスを理解しやすく、したがって、遵守するインセンティブが高くなる

ただし、このアプローチは単純だが、2つの大きな弱点がある。

①長期ファンディングに内在する流動性リスクを無視している
②預金調達のインセンティブが低下する。
③市場コストの反映にタイムラグがある

この点は以下のように別々の「平均」レートを設定するアプローチをとることで幾分緩和できる。これはダブルプール方式(double pooled approach)といわれ、全資産と全負債の2つのプールを作成し、そのプールに含まれる商品に基づいて、ローンには平均ローンレートが、預金には平均預金レートがFTPとして使用される。この方法は普及しているものの、プール内の商品を差別化する能力に欠ける。さらに、長期資産の流動性リスクの高まりを無視する点は解消されない。例えば、3ヶ月のタームローンと10年の住宅ローンは同じレートが割り当てられる。事業部門は、長期間の資金使用に対して高い手数料を受け取らないため、長期資産を書くことが不当に奨励されることになる。逆に、長期に資金を供給する負債にはプレミアムが付かないため、事業部門は長期負債を調達することを控えることになる。その結果、銀行のバランスシート上の資産と負債の満期のミスマッチが拡大し、本質的に構造的な流動性リスクにさらされることになる。


また、平均コストは、過去の金利を反映しているが、直近の市場コストを適切に反映したものではない。コストの変化が平均コストに反映されるには、一定期間継続する必要がある。平均コストは実際の市場コストの変化に遅れるため、銀行が新規に行うビジネスリスクに対する市場リスクを適切に反映することができない。

Matched-maturity marginal cost of funds approach

マッチド・マチュリティ型のマージナル・コスト・オブ・ファンド・アプローチが現在のベスト・プラクティスである。

ここでのFTPは取引の特定の満期と予想されるキャッシュ・フローに基づいて、各取引について個別に割り当てられる。ファンディング・レートは、銀行が実際にインターバンク市場から資金調達できる「イールドカーブ」に基づく。

このアプローチは、銀行の実際の市場調達コストから、固定金利借入コストを変動金利借入コストに変換し、スワップ曲線から描かれる参照レートに対するスプレッドをオブザーブしようとするものである。このスプレッドは通常、期間流動性プレミアム(term liquidity premium)と呼ばれ、資産にチャージを課し、負債にベネフィットを与えるものである。市場調達コストカーブは各年限のシニア債とLIBOR3か月のスプレッドで生成したりすることが一般的である。

このプロセスをより具体的に説明すると、銀行は無担保の長期ホールセール・ファンディングを発行する際に固定金利のコストを負担する。このコストだけでは、流動性に起因する部分を取り除くことは困難である。しかし、固定金利を変動金利にスワップすることで解決する。これは、特異な信用リスクと市場アクセス・プレミアムの両方を反映しており、平均コストよりも流動性コストのはるかに優れた尺度であると考えられている。

基準金利は一般にスワップ曲線から描かれ、1年以内の調達にはLIBORまたはEuribor金利、1年以上の調達には金利スワップの組み合わせで構築される。この曲線は、インターバンク貸出金利の期間構造を反映している。スワップ契約では当事者間で元本が交換されないため、信用リスクは多少軽減されるが、それでもスワップ曲線は、流動性を探る目的で、例えば国債のリスクフリーカーブよりも基準金利の推定に適していると考えられている。これは、スワップ曲線が、銀行がインターバンク市場で資金の貸し借りをする際にさらされるリスクをより忠実に反映しているからである。また、スワップ・カーブは一般的な市場環境の変化も捉えている。


論点)
マッチド・マチュリティ型の限界コスト・オブ・ファンド・アプローチはより良いプラクティスと考えられているが、この方法を採用している先進的な銀行の中には、期間流動性プレミアムを積極的に更新してなかったりして、市場のボラティリティが高まったときに、資産価格が誤って評価され、リスク調整後の利益評価が歪められた銀行も散見された。
また、英監督当局によると、英銀は現在、家計や企業への融資にかかる限界資金コストの主な指標として、ホールセール無担保ファンディングをあまり重視していないことが分かっている。ほとんどの銀行が、カバードボンド(欧州発祥の担保付社債の一種であり、住宅ローン債権等の極めてリスクの低い資産のプール(カバープール)を担保として発行される)やリテール預金など、他の資金源を考慮した指標を使用している。この背景には、金融危機以降、銀行のバランスシートの構造が大きく変化していることがある。ホールセール調達への依存度は低下しており、銀行のバランスシートに占めるホールセール調達の割合は、2008年の40%超から2017年には25%未満に低下している。

CEBSのガイドラインでは、流動性コストの概念として、構造的な流動性ミスマッチによる直接的な資金調達コストだけでなく、緊急時の流動性バッファーを保有する機会コスト流動性ストレス時の資金流出を緩和するための流動性ヘッジポートフォリオの保有コストといった関連する間接的なコストも対象にしています。Grant (2011)、Neu  (2007) も同様に、流動性ヘッジのプライシングを①ミスマッチまたは資金調達の流動性コスト、②コンティンジェンシー流動性コスト(待機流動性を保有するためのコスト)に分解している。

規制コスト

多くの銀行は現在、商品価格を規制コストに直接関連付けることによって、内部リスク評価に関連する要因を補強、あるいは無効化しようと考えている。規制が「ワンサイズ・フィット・オール」のアプローチとして機能するため、規制対象の商品はコストは高くなり、規制に入らなかった商品のコストは低くなる。この現象の最も一般的な例は、流動性カバレッジ比率(LCR)を満たすための「コスト」を商品価格に含めてることである。LCRは、銀行に比較的収益性の低い高質流動資産(HQLA)のポートフォリオを保有することを強制するもので、この要件は、多くの銀行にとって拘束力のある制約であることから、実務上、LCRはFTPの枠組みでよく参照される規制コストとなっている。

以下は、銀行が受ける規制上の制約を示している。銀行で最も拘束力の強い規制はLCRであると見て取れる。このことから、銀行がFTPを含むあらゆる手段を用いて金融機関の舵取りをするようになったことは不思議ではなく、規制による制約が実際のビジネスコストとなったと捉えることができる。


LCRコストを転嫁する方法は、通常、流動性バッファーの「キャリーコスト」を評価することである。このコストは、LCRの係数を前提に、BSの項目間でコストがどのように配分されるかを加重平均することで導き出される。一部の銀行は、LCRの「流出」が発生した場合のみ、負債側にコストを配分している。また、負債と資産の両方に配分し、LCRの「流入」をもたらす資産を奨励することで、必要な流動資産ポートフォリオの保有規模を縮小させようとする銀行もある。

さらに最近では、一部の銀行は、NSFRコストをFTPのフレームワークに組み込むことも検討している。NSFRは長期・安定資金をアセットの一部に保有することを要求しており、全体的な資金調達コストの上昇に寄与する可能性がある。

繰り返しになるが、このような規制コストを商品価格に組み込むことは、すべての銀行に当てはまるわけではない。例えばアジアでは、豊富なリテール資金により、LCRやNSFRなどの比率は規制の最低値を大幅に上回っており、規制コストは殆ど無関係となっている。一方、中東の銀行にとって、シャリア準拠(イスラム金融サービス理事会;流動性リスク管理のための定量的措置に関するガイダンスノート、2015年4月)のHQLAはコストがかかるため、このコストの移転価格は特に重要である。

信用コスト

収益性とインセンティブ創出に関わるため、銀行のFTPプログラムには、銀行が直面するすべてのリスクコストを含めることが重要である。例えば、支店の信用リスクをクリアする場合、FTPに上乗せされるリスクスプレッドの大きさは、CDS市場のコストに関連する可能性がある。流動性のある市場性資産ではそのようなヘッジリスクコストが利用できるかもしれないが、取引されていない伝統的なバランスシート項目のリスクスプレッドは、損失予測を用いて内部的に定義されなければならず、引当金手法に基づくものでなければならない。

信用リスクの効率的なヘッジにはポートフォリオの視点が必要なため、RM部門からトレジャリーへの信用リスクのクリアリングと集中化は自然な流れに見えるかもしれない。しかし、支店の信用リスクをクリアリングすることには、欠点もある。最も顕著なのは、信用リスクのクリアリングによって、支店が発行した信用を管理するインセンティブが失われることである。

計算手法:クレジット・デフォルト・スワップ曲線を用いて信用リスクを解消する場合、クレジット・デフォルト・スワップ曲線をインターバンク調達曲線に加算し、デフォルトリスクを含んだ新たな調達金利を得ることができる。支店の経済的付加価値スプレッドは、貸出金利から信用リスクを含む調達コストを差し引いたものとして計算できる。取引されている信用リスクのクリアリング 取引信用リスクのクリアリング 取引信用リスクのクリアリング 取引信用リスクのクリアリング 取引信用リスクのクリアリング 支店と国庫の間の取引は、①金利スワップ ②行内で発行する支店向けクレジット・デフォルト・スワップ 上記のクリアリングは、取引債権および取引債権に少なくとも近似的にマッピングできる債権に ついては有効だが、信用リスクを伴う銀行勘定項目の大部分は市場を有さない。すなわち、与信の市場価格は存在しない。バンキングブック項目の証券化により、デフォルトリスクの価格に関する情報が得られるかもしれないが、一般に、原資産のプールからそのような情報を抽出することは困難である。

スワップカーブと信用コスト
LIBORをインデックスとする金利スワッ プの場合、LIBORには銀行の信用リスクが含まれて いるので、固定金利にも信用リスクが含まれていると解される。6か月円LIBORである場合、6か月間の銀 行の信用リスクを有していると考えられるため、このスワップ・レートには6か月間の銀行の信用リスク分のプレミアムが追加されていると解釈することができる。一方、OISの場合、金利スワップにおける変動金利は1営業日の銀行の信用リスクが反映されていると考えられ、それと等価交換となるスワップ・レートに反映される信用リスクはごく限定的であると解釈できる。その意味では、信用リ スクが低い分、6か月円LIBORをインデックスとす る金利スワップ・レートに比べれば、OISのスワッ プ・レートは低いレートが付されている。日銀の資料でもOISのスワップ・レートは「リスク・フ リーに近い性質を有している」と説明されている。

LIBORをインデックスとするスワップ・レートを銀行の調達コストと解釈すれば、銀行の調達コストに対して、どの程度金利が上乗せされるか(スプレッドが付されるか)をベースにプライシングをしているとも解釈できる。

スワップ・スプレッドにはカウンター・パーティ・リスクの論点もあるが、近年の規制改革の中で、金利スワップについては中央清算機関でのクリアリングがなされるようになり、適切な証拠金を積むなどして、仮に金融機関が倒産したとしても証拠金を受け取ることができるような措置が普及している。その意味ではスワップ・スプレッドにカウンター・パーティ・リスクが含まれていたとしても通常時は非常に小さいとの解釈もある。

エンベデッド・オプションコスト(Embedded Optionality)

将来のキャッシュフローが不確実な場合に、FTPをどのように測定するかという論点もある。これは、顧客が任意の時点で資金を引き出すことができるため、事実上、口座に引き出しオプションを付与している預金の場合である。その他の例としては、期限前返済やそれに伴う上限や下限が設定されたローンがある。FTPは、マッチングされた満期資金の実際のコストを表すべきものであることから商品に組み込まれた各種オプションの追加コストを無視することはできない。でなければ、キャップやフロア、コールオプションのような、顧客が進んで支払う金利を引き上げることができる組込商品を発行するインセンティブが高まってしまう。FTPが調整されない場合、RM部門が利益を得るために顧客金利にどの程度のスプレッドが必要なのかが不透明である。



Matched maturity FTP

FTPの基本は資産または負債の満期と整合性のある清算レートを割り当てることにある。この方法は、契約のすべてのキャッシュフローを正確に一致させて資金を計算するため、exact method と呼ばれる。

例えば、インターバンクの調達コストカーブを用いて、ファンディングの満期と一致する定期預金のFTPレートを生成することができる。RM部門の純金利マージンは、FTPと対顧レートの差として求められる。一般的に顧客レートは市場調達金利より低いため、純金利マージンはプラスになる。もう一つの例は、ブレット・ローン(借入期間の最終日に一括返済する方式)のFTPと純金利マージンを計算するものである。実際の資金調達のデュレーションはブレット・ローンのデュレーションよりかなり短いが、ローンはFTPの期間と一致するインターバンクレートに帰着する。

上記の単純なケースでは支払いが1回しかないため、FTPをキャッシュフローの満期時に適用される資金調達金利と定義することができた。しかし、満期まで数回の支払いがあるローン(アモチ)の場合、FTPが満期時の資金調達レートになりえないことは明らかである。特に、ローンから生じるすべてのキャッシュフローは、それに応じた資金調達が必要である。すべてのキャッシュフローを考慮し、関連する資金調達レートで加重平均するとFTPは、以下の通りになる。
f(t) はt時点のファンディングレート


もう一つの方法として、契約の期間を計算し、その期間に対応する資金移動レートを契約に割り当てる方法もある。しかし、duration approachはあくまで近似値であり、両手法とも契約のキャッシュフローを計算する必要があるため、exact methodと同程度の計算が必要となる。したがって、実務上は、exact method が用いられることが多い。

リスクベースFTP

資金調達は事実上、①リスクフリーのインターバンク資金、②リスクの高いエクイティ資金の2つに分かれる。 この2つの分割は、契約に割り当てられた信用リスク資本によって決定され、エクイティ・ファンディングは通常インターバンク・ファンディングよりもはるかに高価であるため、割り当てられた信用リスク資本(リスク)が大きくなる。

FTP:ベースFTP
w:allocated credit risk capital(%)※
E:required return on equity capital(%)
EL:expected credit loss(%)

※ credit risk capital: 株式の調達コストは、株式の機会費用、すなわち投資家の期待収益率によって決定される。
オペレーショナルリスクチャージなど他のリスクチャージの加算する場合は、信用リスクと同じアプローチをする。すなわち、w をeconomic capital allocated (経済的資本)の総額とexpected losses (予想損失)の総額の合計として解釈することができる。運用コストや事業コストなどの非リスクチャージは、固定的な加算として扱われる。

将来のキャッシュ・フローの不確実性
このような組込み型オプションのプライシングには、一般的に2つの異なるアプローチが考えられる。それは、金融工学的アプローチと統計モデル的アプローチである。

金融工学的アプローチでは、エンベデッド・オプションは、市場価格エンベデッド・オプションとして定式化されます。オプションは、ハル・ホワイト・モデルなどの短期金利の市場モデルを用いて評価され、インプライド・モデルのパラメータは、類似の市場商品から推定されます。最後に、資金移動価格は、いわゆるオプション調整スプレッドを使って、エンベデッドオプションの価値で調整される。

ハル・ホワイト・モデル
ハル・ホワイト・モデルは確率微分方程式で時間や金利の変化が連続的に表現される。rは短期金利で微少期間の金利を表す。b(t)は時間の関数である。aは平均回帰性 を調整するパラメータで平均回帰速度パラメータと呼ばれる。aが大きくなるに従って短期金利 rが平均回帰レベルに収束する速度が大きくなる。W(t)は将来の短期金利の不確実性を確率的に表現する項でブラウン運動を表す。ここでは dW(t)が平均 0 分散 dt の正規分布に従う確率変数であると理解すれば十分である。σ は短期金利のボラティリティで短期金利の変動の大きさを表す。

エンベデッド・オプションの価値を計算したらFTPに対するマークアップを定義する。ここでは、オプション調整後スプレッド(OAS)という概念を用いる。


統計モデルアプローチでは、例えば、期限前返済モデルや預金量モデルなど、行動モデルが定式化される。そのモデルの下でキャッシュフローが評価され、不確実性に必要なFTPスプレッドが算出される。
預金量変化を説明するために使用されるモデルには、確率的(stochastic)なものと決定論的(deterministic)なものがある。


確率論的モデルとしては、対数的なボリューム変化を主要な変数にする。例えば金利、GDP、季節項などで説明する回帰モデルなどがよく使われる。決定論的モデルとしてよく使われるのは、コア部分のポートフォリオランオフ償却シナリオ(portfolio runoff amortization scenario)を指定した、コア・コン・コア預金モデルである。預金の評価とキャッシュフロー生成のアプローチは、文献上、広く研究されている。例えば、Selvaggio (1996) や Jarrow and Van Deventer (1998)のアプローチでは、預金調達のボリュームは、調達金利、 預金金利、 数量、 時間の間のスプレッドに伴って増加するとしている。


サブシディー
リスクベースFTPの策定は、透明性を持って行う必要がある。多くの銀行では、リスクベースのFTPを計算し、インセンティブを別途表示している。このアプローチでは、商品がサブシディーを受けていること、そしてサブシディーがなければ商品の利益率がマイナスになること等が経営陣にとって明白となる。銀行はサブシディーの変更について、関連するガバナンス委員会を通じて定期的に再承認する必要があり、この委員会は正当な理由が引き続き有効であるかどうかを評価することができる。

ただし、FTP設定において、リスクベースとインセンティブベースの両方のドライバーが混在している場合、透明性を確保することは困難である。さらに多様なバランスシートに多くの異なる商品を重ね合わせると、複雑さが増す。このような場合、FTPのフレームワークは、リスクとインセンティブを粒度の細かい要素に分割できるソフトウェアがなければ運用できない。

参考

What is Funds Transfer Pricing and Why It Matters in Banking | Syntellis

*understanding-profitability-through-ftp_syntellis.pdf

Enhancing fund transfer pricing (FTP) systems at a time when they are needed most | Wolters Kluwer

Fund Transfer Pricing (assets.kpmg)

Building a Comprehensive FTP Framework | Moody's Analytics (moodysanalytics.com)

Funds-transfer-pricing in Banks: what are the main drivers? (moodysanalytics.com)

FTP (sap.com)

Microsoft Word - FTP_Final_091211.docx (moodysanalytics.com)

Microsoft PowerPoint - 【全体最適】の銀行ALM講演(20100903).ppt (ffr-plus.jp)

Skoglund, Jimmy; Chen, Wei. Financial Risk Management (Wiley Finance) (Kindle Locations 17708-17710). Wiley. Kindle Edition.

Liquidity transfer pricing: a guide to better practice (bis.org)

広報誌「ファイナンス」 (mof.go.jp)

2009年財界観測夏号「年金運用における金利スワップの利用」 (PDF) (nomuraholdings.com)

Has the link between wholesale bank funding costs and lending rates changed? | Bank of England

Bank of England Quarterly Bulletin 2014 Q4

Bank Funding Costs for International Banks; by Rita Babihuga and Marco Spaltro; IMF Working Paper No. 14/71; April 2014

The Fed - How Correlated is LIBOR with Bank Funding Costs? (federalreserve.gov)

Bank Of America And Its High Marginal Cost Of Funds (NYSE:BAC) | Seeking Alpha

Matched Maturity Marginal Funds Transfer Pricing (oracle.com)

(PDF) Revisiting Funds Transfer Pricing (researchgate.net)

Funds Transfer Pricing in Swedish Savings Banks: An Exploratory Survey - ScienceDirect

アセット・スワップ(スワップ・スプレッド)入門―日本国債と金利スワップの裁定について― (mof.go.jp)

instituting_a_funds_transfer_pricing_driven_framework_in_banks.pdf (financialit.net)

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