LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の後継参照金利
LIBOR後継金利の各国の対応
LIBORは融資や債券などの指標金利として幅広く利用されてきたが2012年に複数の銀行による不正操作が表面化し、廃止する方向になった。
各国の金融当局が、2021年末までにLIBORのアクセシビリティと機能性を維持しつつ、より信頼のおける新ベンチマークに置き換えるべく、開発を進めているので本欄で整理する。米国
- FRBは代替金利としてSOFR(Secured Overnight Financing Rate: 担保付翌日物調達金利)の導入を進めている
- 規制当局がSOFRを推奨する理由は、このベンチマークがほぼ毎日1兆ドル以上という膨大な取引高に裏付けられているからだ
SOFRは3つの重要な点でLIBORとは異なる
- 銀行が提示する金利でなく実際の取引に基づくものである
- LIBORには翌日物から1年まで9種類のターム物金利があるのに対し、SOFRは翌日物金利のみである
- 米国債を担保とするレポ取引に基づく、担保付きの金利である
制約
- SOFRには翌日物より長いタームがない→従って予想に基づく金利の期間構造がない(ただし月次でも四半期ベースでもSOFR先物の取引が増えれば、やがては追加のターム物金利が生み出されて、将来の金利予想を反映したイールドカーブが構築されると思われる)
- ベンチマーク設定の決定要因となるレポ取引市場における定期的なボラティリティの問題
- SOFRに信用リスクの要素が含まれてない
- (LIBORは銀行間の借り入れコストに基づくものであるため、特に信用状況が悪化した場合はカウンターパーティ・リスクも反映することになるが)
その他のベンチマーク
Bank Yield Index(BYI)
- 2019年1月には、LIBORの監督機関であるICEベンチマーク・アドミニストレーションが発表
- LIBORにリンクされた融資活動のための代替指標として開発され、SOFRに欠けている複数のターム物金利と信用リスクの要素を含む
AMERIBOR
- 主にアメリカ金融取引所(AFX)の会員である中小規模の銀行間における実際の借り入れコストから算出される
- AMERIBOR先物は既にCBOE 先物取引所で取引されている
ユーロ圏
ユーロ圏では長らく、LIBORに似たベンチマークで180兆ユーロ(211兆ドル)の資産の指標となっているEURIBORとその短期物であるEONIA(ユーロ圏無担保翌日物平均金利)が参照金利として使われてきた
EURIBOR
- ここ数年で計算方法が変更され、政策決定者は2021年も継続利用ができる
- ウォーターフォール手法は、予想モデルやパネル行の判断でなく実際の取引に基づいて銀行の寄与分に優先順位を付けるもの
- 一方で規制当局は、一握りの銀行が支配的だったごくわずかな実取引に基づいていたEONIAを廃止して、ESTRとよばれるユーロ短期金利を採用しつつある
ESTR
- ユーロ圏銀行の翌日物無担保借入コストを示すもので、マネーマーケット取引に基づく
- ECBが集計した最近のデータによれば、毎日約400億ユーロに上る500件ほどの取引の平均によって算出され、年金基金から保険会社まで幅広い参加者がいる
英国
SONIA
- ポンド翌日物平均金利は、1997年頃に登場
- 2016年以来英中銀に監督され、2018年に改良版が再び導入された
- ESTR同様、SONIAは無担保の翌日物資金に支払われる金利を測定する
- 改良版には、銀行間取引だけでなくブローカー仲介ローンも含まれる
- その他の修正には、平均化手法の調整に加え、英中銀にもっと取引処理時間を与えるための発表時間の変更などがある
- 英中銀によると、SONIAは毎年約30兆ポンドの取引評価に使われている
- 英ポンド建てのデリバティブ市場は既にSONIAにシフト
- 2021年より後に償還期限を迎える変動利付債はほぼすべてLIBORから切り離されている
- 英規制当局はSONIAのターム物金利を開発するとともに、LIBORが段階的に廃止された後の移行がスムーズに行われるよう、貸し手と借り手に対しLIBORベースの契約改正を求めている
タームSONIAの計算方法(ICE):
ICE Term SONIA Reference Rateは、指定されたテナー期間におけるSONIA1金利の平均予想(すなわちフォワードルッキング)を測定するために設計された。各ICE Term SONIAレファレンス・レート(それぞれ「ICE TSRRレート」)は、「ウォーターフォール」手法に従って取引所から提供された、特定のSONIAに連動する金利デリバティブ商品の適格価格および取引量を使用して算出される。
ウォーターフォールの最初のレベル(「レベル1」)では、規制された(電子)取引所から提供された適格なSONIAに連動するオーバーナイト金利スワップの執行可能な価格と数量を使用して、ICE TSRRレートを導出。これらの取引所がレベル 1 ルールに従って ICE TSRR レートを計算するのに十分な適格なインプットデータを提供しない場合、ウォーターフォール2 レベル(「レベル 2」)を利用する。
レベル2は ICE TSRR レートを導出するために取引所により電子的に表示される適格なディーラー対顧客の価格および数量を使用する。レベル2に従ってICE TSRRレートを計算するために適格な入力データが不十分な場合、ウォーターフォールの第3レベル(「レベル3」)に移行。
レベル3は公表された前取引日のSONIAリンク先物決済価格、イングランド銀行が公表したSONIAレート、MPC会合予定日などを使用してICE TSRRレートを導出する。
ウォーターフォールのレベル1、レベル2、レベル3においてICE TSRR Rateを算出できない場合、そのICE TSRR Rateは「No Publication」と公表される。
IBAはまた、ウォーターフォールに新たなレベルを追加し、ICE TSRRレートを導出するために、取引所が電子的に表示するSONIA連動先物の約定価格と出来高を使用することを意図している。このレベルは、上記の方法論の第2レベルに従ってICE TSRRレートを計算するための適格な入力データが不十分な場合に使用されることを意図している。
ICE Term SONIA 基準金利は、ベンチマークを管理するという規制対象業務について英FCAの認可および規制を受けている ICE Benchmark Administration Limited (「IBA」) によって管理されてる。
https://www.smbcgroup.com/pdf/emea/smbcbi-pillar3-2021.pdf/
スイス
SARON
- スイス翌日物平均金利
- SOFR同様、翌日物取引がベースだが、スイスフラン建てレポ取引を使用
- SARONは金融機関同士の取引のみに基づく
- 2019年まで、SNBは国の金融政策の指針としてLIBORを使用していたがSARONに切り替えた
- SNBは今ではスイスのマネーマーケットにおける流動性を制御して、SARONを誘導
日本
TIBOR
- 全国銀行協会のTIBOR運営機関が監督
- 東京の銀行間取引金利TIBORはLIBORの一種で、10年前にはTIBORにも不正操作の問題が疑いが生じた
- 同運営機関は2017年に一連の修正を行い、その中で、無担保の貸出金利の信頼性と透明性を強化するため、実際の取引に基づくか、あるいは実際の取引データがない場合は似たような銀行間の市場金利を参照する新たな手法を導入
- 2種類のTIBORがある: 日本円TIBOR(通称:DTIBOR) 本邦無担保コール市場の実勢を反映。デイカウントはAct/365。 ユーロ円TIBOR (通称:ZTIBOR) 本邦オフショア市場の実勢を反映。デイカウントはAct/360。JBAからはユーロ円TIBORの廃止を実施する場合、その時期は2024年12月末となる見込みであることを発表されている。
TONA
- 東京翌日物平均金利は、無担保の翌日物借入取引に基づく日本の短期の代替指標金利
- 規制当局は、変動レグとしてTONARを使う翌日物インデックススワップの市場データに基づき、期間構造を開発
- 確定値を算出・公表するのはQUICKのグループ会社の「QUICKベンチマークス」
- 日銀の雨宮正佳副総裁が2021年半ばまでにはイールドカーブが利用可能になるだろうと講演で述べている
TORF
- 東京ターム物リスク・フリー・レート
- 銀行間取引の翌日物金利をもとに算出されたターム物金利
- TORFとTONAの違いは、ターム物か翌日物かの違いである
- ターム物は要するに「翌日物ではない」ということ、つまり「金利の期間が1営業日よりも長い」ということ(1M, 3M, 6M)
- 確定値を算出・公表するのはQUICKのグループ会社の「QUICKベンチマークス」
- 毎営業日の午後5時に、当日分のレートをQUICKの情報端末やホームページなどに掲載する
- TORFはOISレートのうち、短期OISレートをもとに算出されている
- TORF6Mであれば満期6Mの短期OISレートを実取引ベースで集めてきて、それをもとにTORF6Mレートが算出される(TORF6Mであれば、TONAを6か月のあいだ複利運用した結果と釣り合うように決まる)
- つまりTORFの元となる材料ひとつひとつはTONA、TORFはそれを例えば6カ月の間累積した結果のレート
- TORFはTONA、つまり無担保コール翌日物の市場金利がもとになっているため銀行の信用リスクが入っていない(TIBORには銀行の信用リスクが入っている)
- 翌日物は1営業日のあいだ銀行間で資金を貸し借りするので信用リスクはほとんど入っていない
シンガポール
SORA
- シンガポール翌日物平均金利
- オンショアの無担保翌日物の銀行間シンガポールドル取引の平均金利に基づき、一方のSORはドルを借り入れ自国通貨に交換する取引に基づいて算出
オーストラリア
BBSW
- バンクビルスワップレート
- BBSWはバンクビル市場の実際の取引に基づいている
- 近年、この金利に対する不正操作の試みが発覚し、2018年の改革によって金融ベンチマークに対する新たな規制枠組みを導入→出来高加重平均の評価手法が採用された
- 豪州翌日物インデックス平均のAONIAもまた普及し始めている
- 国内のインターバンク市場における無担保融資の金利に基づくもの
香港
HONIA
- HIBOR(香港銀行間取引金利)に代わる指標として、HONIAと呼ばれる香港ドル翌日物インデックス平均が香港の財資市場公会により提案されている
- HONIAは他のリスクフリーレート同様、インターバンク市場における無担保の融資取引に基づき、従ってより信頼性の高い指標金利である
- それでも、香港金融管理局は、HONIAとHIBORが共存する複数金利アプローチを採択する予定
https://www.business.hsbc.com/ibor
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