欧州政治経済状況の整理:EU復興基金と欧州の将来
欧州政治経済状況の整理
~EU復興基金と欧州の将来~
長い長いEU首脳会合が終わり、ほっとしましたが、問題はこれからのような気もします。
参考までにEU復興基金についてのポイントと今後の欧州経済における論点を以下のとおり整理しました。
EU首脳会合の整理
会合を終えて
⇒4月、6月は決裂したが、今回は3度目の正直となった ⇒2日で終わると思われたサミットは5日間にわたり欧州連合史上2番目の長さのマラソン会合となった ⇒倹約4か国は反対すること自体が目的化していたみたい
⇒4月、6月は決裂したが、今回は3度目の正直となった ⇒2日で終わると思われたサミットは5日間にわたり欧州連合史上2番目の長さのマラソン会合となった ⇒倹約4か国は反対すること自体が目的化していたみたい
内容は?
⇒結局、7500億ユーロを総枠維持で合意
⇒補助金3900億ユーロ、融資3600億ユーロ
⇒支援対象国が条件を満たしていない場合に資金提供を一時的に停止する「緊急ブレーキ」の仕組みが組み込まれた
⇒7,500億ユーロの資金調達は2021-2024年の間に実施
⇒クロスデフォルト条項なし
※クロス・デフォルト:債務者がある一つの債務に対してデフォルトとなった場合、他の債務や、別の債権者に負っている債務に対しても前倒しして債務の返済を要求できる仕組み。これが無いということは、どこかの国がデフォルトしても復興基金が連鎖的にデフォルトに陥ることがないということ。
雑感
結果だけ見れば5日間費やしたのは補助金と融資の比率を、ああでもないこうでもないと話し合う、内訳をいじるだけの作業でした
あと、しれっと倹約国の次期EU中期予算での払い戻しの増額が決定されました。
このEU予算からの払い戻しは、かつて英国が受け取っており、英国のEU離脱を機にフランスが段階的に廃止したいと考えていたものです。(言ったもの勝ちシステム)
全会一致での意思決定メカニズムを採用する欧州連合では、「反対に回ったほうが自国に有利になる」という、モラハラまがいの戦法が、今回、結果的に有利に働いたことで、嫌な前例が出来てしまいました。
欧州の今後が心配です。
※ 倹約4カ国(オーストリア、オランダ、スウェーデン、デンマーク)
金融から財政へのシフト
そもそも、政治家が議論に時間を費やせるのはECBが必死に金融政策で支えているからです。
前回の会合でラガルドが復興基金を「a real game-changer」と発言しましたが、これは「これ以上、金融に依存するな」という気持ちの表れです。
今回の結果で緊急対応は中銀から行政へシフトしたとみるべきでしょう。
つまり、欧州経済の今後の方向性は、量的緩和額や金利水準によってみるのではなく、欧州復興基金を原資に各国が実施する財政政策にフォーカスを当てる必要があります。
マーケットウォッチャーとしては、よりユーロ相場分析がややこしくなったように思います💦
今後、欧州に待ち受けるもの
夏から銀行の企業向け貸出態度は急激に厳しくなります。
BLS調査によると企業の借入需要がかつてないほど切迫する見込みです。(リーマンショックと異なる点)
データ:BLS
「貸出態度の厳格化」と「借入需要の急騰」が同時に起こり懸念されるのは倒産の連鎖。 借入需要は良い資金調達(企業買収や設備投資等)ではなく 悪い資金調達です。(資金ショートで運転資金をかき集めてる)ソフトバンクしかり💦 ロックダウンは資金漏出を企業に強いる政策だったと言えます。
IMFによるとすでに中小企業が苦境に陥っているようです。
倒産数は3倍に急増する予想で、欧州復興基金の使い道を誤れば年末に向け金融危機に発展するリスクがあります。
⇒スピード:短期的に企業の破綻を阻止できないリスク
⇒質:企業の『ゾンビ化』を回避する必要性
欧州系銀行の貸付損失
欧州系銀行の貸付損失、向こう3年間で4000億ユーロ以上が見込まれています。
リスクが高いのは中小企業向けの融資と無担保消費者ローンです。 (ムーディーズレポート)
一応、欧州復興基金の額内には収まってますが、この程度ですめばいい方だと思います。
ちなみに欧州債務問題の時でも銀行の貸付損失は8000億ユーロでした。
コロナショックによる貸付損失が欧州債務危機レベルを上回る可能性は十分にあると思います。
英国も他人ごとではない
ロビーグループによると 2021年3月までに970 億〜1070億が債務不履行に陥ることが予想されています。
⇒英銀の資産は不良債権だらけ
⇒銀行に、その場しのぎの流動性資産への駆け込み耐えうる体力はない
⇒デフォルトが顕在化すれば債務危機に発展
つまり
EU復興ファンドは、実効性が重要です。
⇒立ち直る見込みのない企業を特定しないといけない
⇒時間的猶予はない
ユーロ圏にとって主要輸出相手国である中国が、ウイルス感染 をうまく抑制し、4-6 月期に前年比でプラス成長に回帰したことは明るい材料ですが、その流れが欧州まで波及するまでは時間がかかると思います。
経済回復するまで欧州の事業法人の経営がもっているかは甚だ不透明です。
小売店の営業も徐々に再開されてはますが、小売業関連の指標をみると、客足は戻っていません。
EU復興基金か示すECB金融緩和の長期化
今回、EU首脳会合で決まった復興基金7,500億ユーロの資金調達は2021-2024年の間に実施されることが分かっています。
逆説的に、ECBは、マイナス金利政策やめるわけにはいかなくなりました。
ここでECBが利上げすれば、EU政府は高金利で資金調達しなければならなくなります。
それで、欧州のプライマリーバランスを悪化してしまえば国債価格が低下し、欧州における借り入れコストの急騰を招いてしまう懸念があるからです。
よって、今回の復興基金はECBの独立した金融政策に、大きく影響を及ぼす決定であったと思います。
仏財務省の官僚出身であるラガルドECB総裁は躊躇なく、財政出動を最大化できる環境を提供するでしょう。
日本政府が発行する国債の支援を金融緩和によって実施するような構図です。
どうやら欧州は日本化コースに突き進んでいるようです🙌
欧州各国のコロナ対策支援
欧州復興基金で忘れかけてかけてましたが、そもそもコロナ対策は各国レベルで導入中です。
しかし、ロックダウンを始めるにあたって欧州各国が始めた緊急支援政策が夏にかけて続々と切れることが懸念されています。どうなるんでしょうか?
調べてみました
ドイツ
⇒中小企業向けの250億ユーロの流動性供給が8月末に期限切れ
フランス
⇒すでに6月に給与保障を削減
⇒最大2年間の収入減をカバーする新政策を発表
⇒政府の融資保証は年末まで利用可能
⇒しかし政府は財政難を避けるための新しいツールを検討中
⇒民間銀行と共同で、中小企業に資本注入する計画
イタリア
⇒解雇禁止令が8月17日に期限が切れる予定⇒年末まで延長される見込み
⇒給与保障14週間から18週間に延長
というか解雇禁止ってすごいですね
(それで企業は持つのか?)
概観として、ドイツ以外は支援の延長が示唆されているようです。
結論
欧州におけるコロナ対策は綱渡りで、欧州復興基金が合意できたからと言って手放しで喜べない状況です。
配分された基金は、使い方が重要で、各国レベルのコロナ対策の延長の行方も気になります。
夏には欧州の事業法人の運転資金がひっ迫する見込みで、銀行の健全性も懸念事項です。
連鎖破綻を連想されれば欧州債務問題の再燃する恐れがあります。
欧州は、まだまだ予断を許しません。
以上
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