バイデン氏が大統領になったらどうなる?ドルは売られる?
米大統領選挙
2020年11月3日に実施される、4年に一度のアメリカ大統領選挙ですが、徐々にマーケットの注目が集まってきています。そこで、米大統領選挙の趨勢、バイデン氏の政策、市場への影響を整理することにしました。
ほんのり長めですが、大統領選を見るうえで参考にしてください。

バイデン民主党大統領候補
共和党候補は現職のトランプ氏で確実ですが、民主党は一時は極左のサンダース氏が候補となるとの見方も浮上していました。
バイデン氏は元来、資金集めが苦手とされ、苦戦が目立った民主党候補指名争いの序盤では選挙資金の枯渇で撤退する可能性が指摘されていたのです。
ただ、その後の巻き返しで党候補指名が確定的となり、指名を争った他の候補らが軒並み同氏支持に回ったことで資金繰りが一気に好転。
結局、民主党は中道派のバイデン氏を候補に立てることで落ち着きました。
米国では、一般的に中道派の方が得票率・支持率は高いため、対トランプ戦略としても、無難な結果だったと思います。
両党の支持率の趨勢は、というと、共和党支持層からは引き続き高い支持を得ているトランプ大統領ですが、コロナウィルス対応や、ミネアポリス事件への対応を受けて無党派層が「アンチ化」しているようです。
大統領選の注目ポイントは?
トランプ氏にとって最大の打撃は、史上最長の拡大が続いていた景気がコロナ禍で奈落の底へ沈んだことです。
議会予算局は4〜6月期の実質GDP(国内総生産)成長率を年率マイナス約40%と予想しています。
コロナウィルス感染が拡大する前の経済政策は、ほとんど形骸化したため、今回の大統領選の争点は、コロナウイルス感染症への対応、一本勝負となってしまった感があります。
とりわけ、ウイズ・コロナ時代、ポスト・コロナ時代を見据えた経済戦略が重要なポイントとなるはずです。
コロナ感染対策は、初動こそ、FRBが大規模な金融政策によってかじ取りをしましたが、すぐに金融政策の限界論が浮上しています。
よって、今後の経済支援は財政へシフトしていくものと考えられ、米大統領選は正に世界経済の命運を握っています。
パウエルFRB議長からも、「FRBは融資を行うことはできるが、成長につながる消費を行う権限はない」「(マイナス金利は)米国では魅力的な金融政策ではない」と、金融政策の限界が示唆される一方、直接的な財政支援の必要性が協調されました。
大きな政府が時代の潮流に
大規模な対応が求められるのは、危機ならではの現象ですが、その規模感、内容については、まだ定まっていません。
歴史を振り返ると、アメリカでは大恐慌期からケインズ主義、大きな政府の時代が約半世紀にわたって続きましたが、1980年代の共和党ロナルド・レーガン政権期から新自由主義、小さな政府の時代に転換してしまいました。
ですが、コロナ感染拡大によって、世界経済全体でも1930年代の大恐慌以来の前代未聞の落ち込みが見込まれると、大恐慌時の1933年に就任したフランクリン・ルーズベルト米大統領が採った「大きな政府」戦略、いわゆるニューディール政策を再現しようという風潮がつよまっています。
政治の潮流が小さな政府から、大きな政府へ、パラダイムシフトした印象です。
ニューディール政策は米国だけでなく、世界中の政治家から再注目されています。
2020年6月には、ジョンソン英首相が、英国版ニューディール戦略とし、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた英経済を立て直すため、道路や学校、病院への50億ポンド規模のインフラ投資の加速を発表しました。
こういった流れは、リベラル派のバイデン氏にとって追い風となっています。

トランプ氏の経済政策
トランプ氏は、コロナ対策として、総額2兆2000億ドルの「Coronavirus, Aid, Relief and Economic Security (CARES) Act」を成立させました。
これにより、名目GDP(国内総生産)の10%に相当する金額規模で、企業や個人を直接支援することが可能となりました。
具体的には、全国民を対象に、大人一人につき1200ドル、子供は500ドルという現金給付が開始されました。
かつてない大型の政策で、この規模は、真珠湾奇襲攻撃を受けた翌年にGDPの10%以上の財政支出した時以来のものとなります。
バイデン氏の経済政策
バイデン氏は4月に発表した計画で、国が経済的な救済に積極的に介入する「大きな政府」を掲げる民主党の理念のもと、新型コロナウイルスの影響で厳しい状況にある労働者や中小零細企業を保護する姿勢を鮮明にしました。
内容については、不透明な部分が多いものの、米紙によると、バイデン氏が左派系のエコノミストを集め、新たな政策を練っていると報じられました。
まさに現在進行形で計画が立てられているようです。
① 社会保障
大きな議論となっている経済活動の再開をめぐっては、トランプ大統領が早期の再開に意欲を見せる一方、バイデン前副大統領は科学的な検証が必要だとして慎重な立場です。
よって、バイデン氏の政策には長期的なコロナ対策が含まれるものと考えられます。
これまでもバイデン氏は、医療保険制度、オバマケアの継続、拡充を訴えていたことから、オバマケアをベースにコロナ対策にもなりえる社会保障政策を打ち出す可能性があります。
② 環境政策
バイデン氏は、もともと気候変動対策を強く押し出すことで、「グリーン・ニューディール」を掲げて予備選を戦ったバーニー・サンダース上院議員やエリザベス・ウォーレン上院議員ら急進左派の支持を取り付け、民主党内の統一を図りました。
バイデン氏が、大統領選で勝利すれば、この環境対策の側面をくみ取りつつ、コロナ対策ともなるような新時代的なニューディール政策を打ち出すことが考えられます。
財源は大丈夫か?
大規模な経済政策は、そもそもトランプ氏の予てからの持論であり、既にコロナ対策で2兆ドル規模のインフラ投資が発表されていますが、ここから一段の経済対策をバイデン氏が打つことはできるのでしょうか?
バイデン氏が大統領になって大きく変わる点として、財政出動は「増税とセット」で行われるということがあげられます。
トランプ政権での大盤振る舞いを考えれば不可避に見えますが、痛みを伴います。
2017年のトランプ減税は企業の買収ブームを起こし、株価は値上がり、当然ながら銀行の税金も軽くなったとされています。
バイデン氏が当選すれば、ウォール街を押し上げてきたトランプ政権の追い風はやむため、ウォール街は閑古鳥がなくでしょう。
増税の内容は?
新型コロナウイルス問題が深刻化する以前から、バイデン氏は、「富裕層は長期投資のキャピタルゲインに20%しか税金を払っていない」、「実質的な減税額が2019年だけで1,290億ドルに達している」と、トランプ政権の財政政策を厳しく批判していました。
そのうえで、大企業と富裕層への大幅な増税構想を打ち出しています。
中でも、市場が懸念するのは法人税増税で、バイデン氏は「法人税率は現行の21%から28%に引き上げる」と主張しています。
法人税率引き上げはトランプ減税の巻き戻しであり、本当に実行すれば株式相場の急激な調整は避けられないと考えられます。
金融規制
バイデン氏は米銀の規制に積極的です。
1つはリテール銀行と投資銀行を分割する提案で、銀行に証券業務との兼業を禁じたかつての「グラス・スティーガル法」にどことなく似ています。
2つ目は、米国民すべてにFRBの口座を1つ与えるといった提案です。
直接、米国民のポケットマネーを調整できることから、社会的弱者やマイノリティーらを救済できるかもしれません。ただ、バンク・オブ・アメリカやJPモルガンといった大手からゴールドマン・サックスのような新参者に至る民間銀行を一気に淘汰してしまうリスクがあります。
彼らがFRBと角突き合わせて競合すれば、価格競争、利便性とテクノロジーで顧客を引きつける必要があり、民間銀行では大規模なリストラが実行されるでしょう。
実質、民間銀行を一掃し、国営銀行だけが残る時代に突入するかもしれません。
バイデン氏は金融規制は米金融業界をぶっ壊す可能性があります。
市場へのインプリケーションは?
①株式市場
市場参加者の一部は大統領選後の相場下落を想定し始めています。
シカゴ市場のS&P500種株価指数オプションの12月物の建玉をみると、プット(売る権利)が異常なほど積みあがっています。
これは、11月の大統領選でバイデン氏が当選するリスクに備えた、株売り戦略だと考えられます。
②為替市場
トランプ政権の支持率は、ドルインデックスと相関関係にあります。
トランプ政権が支持を拡大するほど、ドル買いが入るという構造です。
これは、トランプ政権が実施してきた、金融規制の緩和が、為替市場と親和性が高いためだと考えられます。
トランプ氏は政権樹立後、銀行の投機的投資をきわめて複雑に制限した「ボルカー・ルール」を緩和し、米国投資の国際化の加速を後押ししました。
域外の投資家が自由に米金融機関と取引することができるようになるとの思惑から、ドル買いを誘ったとされています。
もしバイデン氏が大統領となれば、少なくとも就任当初はマーケットに厳しい政策を採ることが予想されます。
従って、民主党政権となり金融規制が復活すれば市場にネガティブな反応が現れる可能性は否定できません。
結論
トランプ劣勢にもかかわらず、いまのところ安定を示す為替市場ですが、11月の米選挙で「民主党圧勝」が実現し、結果的に増税や新たな金融規制がもたらされる可能性を、まだ十分に織り込んでいないように思います。
無党派層有権者の多くは、夏休みが終わる9月第1月曜のレーバーデーまで態度を決めないことから、今から予想しても仕方がないといえばないのですが、米選挙の趨勢によって相場が乱高下する時期はすぐそこまできています。
足許では、新型コロナウイルスの第2波懸念から、かつてないほどの大きな政府を望む声(リベラル政権への回帰)が大きくなっていますが、この流れが続き、バイデン氏有利のまま11月を迎えるか、注視する必要があります。
【スケジュール】
9月29日 | 第1回大統領候補者による討論会 |
10月07日 | 副大統領候補者による討論会 |
10月15日 | 第2回大統領候補者による討論会 |
10月22日 | 第3回大統領候補者による討論会 |
11月03日 | 大統領選挙 投票日 |

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