為替介入文学🐣口先介入の言い回しから測る介入の蓋然性

口先介入から測る通貨介入の蓋然性分析


コロナ危機と米中リスクが相まって、リスク回避通貨に需要が殺到する展開が続いています。

このような相場では円が買われるのが必定です。
そうなると、「為替相場の安定化を図りたい日本政府」と、「円買いを狙う市場」の対決構造が出来上がります。

本欄では、今後、相場のフォーカスとなり得る「為替介入の蓋然性」を測るために必要な当局関係者からの言い回し(ボキャブラリー)を整理します。


口先介入の強弱

通貨当局の為替相場変動(円高)に対する懸念のレベル感を過去の発言に基づいて類型化すると以下のようなものになります。

口先介入:レベル0
相場についてはコメントしない
為替の動向に一喜一憂しない

口先介入:レベル1
相場は経済や金融のファンダメンタルズを反映するのが望ましい
相場は安定的に推移するのが望ましい

口先介入:レベル2
為替市場の動向を注視している
市場動向を注意深く見守っている
市場動向を大きな関心を持って注視している

口先介入:レベル3
経済のファンダメンタルズを反映していない
為替の行き過ぎた変動は日本経済に好ましくない

口先介入:レベル4
円相場の動きは行き過ぎている
投機勢主導で急速に円高が進む局面が顕著になってきている

口先介入:レベル5
相場の動きがファンダメンタルズを全く反映していない
一方的な動きで看過できない
一層の緊張感をもって注視する

口先介入:レベル6
為替の行き過ぎた動きに対してはあらゆる措置を排除しない
行き過ぎた投機的な動きに対しては断固たる措置をいつでも取る
行き過ぎた円高を是正する

(諸説あり)

なぜ言い回しが決まっている?

実際の為替介入は、旧民主党政権時の2011年を最後に実施されていないため、自民党政権になりボキャブラリー、言い回しは変化するかもしれません。

なので、そのまま当てはめることはできませんが、麻生財務相の発言を聞いていると概ね同じようなボキャブラリーを使っている印象です。

これは推察ですが、たぶん財務省には定型文マニュアルのようなものが存在しているんだと思います🐣

当局としても、あえて言い回しを変えずに「あと、どれくらいいったらするぞ!」っていう緊張感が、相場に正確に伝わってほしいんでしょうね。

そもそも、通貨介入は、一種のレート操作なので、介入せずに相場が気づいてくれて、円買いから撤退すればそれが一番安上がりです。

なので、毎回、同じような言い回しを使って、市場での疑いの余地をなくしたい。

そこに、形式を変えないメリットがあるのかもしれません。

よって、市場では、当局の言い回しをみてどれくらいの真剣度なのかを測ることが有効とされるです👀

為替介入文学とドル円戦後最高値

このような言い回しは独特なので、「為替介入文学」というべきかもしれません。

もはや、日本語というより、命令式が固定化されたプログラミング言語のような印象を受けます。

この為替介入文学の言い回しの分析は、2012年の民主党政権時代に流行りました。

というのも、当時、リーマンショックのリスク回避ムードで世界中の投資家が日本への資金流入を加速させた結果、円が戦後最高値となる75円32銭まで急激に買われる展開となり、正直、どこまで落ちるか誰もわからない状況でした。

当然、日本政府としては、為替相場を安定化させるために、絶対に死守すべきラインを設定し、市場に知らしめる必要がありました。

そこで、日本政府は、これらの為替介入文学を利用し、為替レートの動きをこれ以上の円高は許容しないことを市場に明確に示すことを企図しました。

口先介入で円高期待を挫きつつ、適宜、日本円売り介入を実施していったのです。

実際に介入も複数回行われ、民主党政権下では総額16兆円の外貨買いが行われました。

勿論、介入額自体も巨額なのですが、実際には口先介入によって、市場がコントロールされていた印象です。

為替介入文学の威力は、市場と政府が一丸となって、市場を形成していくことなのかもしれません。

市場としても、政府の防衛ラインが分かれば、それ以上の売りをストップし、買いに転じることができるので、ウィンウィンの関係となり得ます。

結論

✅口先介入で使われるコメントは独特
✅為替介入文学を理解し、政府の真意を測ることが肝要
✅官製ドル円相場となるタイミングでは、流れに逆行しないように心がけることが必要

国会中に遊んでいる人たちのイラスト


(余談①)よく勘違いされる為替介入の意思決定
通貨介入の決定権は日銀にあるとの勘違いがよくありますが、実際には日銀ではなく日本政府・財務省が介入を決定し日銀に介入実務を依頼する意思決定プロセスです。

(余談②)口先介入以外のシグナル
財務省と金融庁、日本銀行の幹部らの三者会合を実施し、緊張感を市場に伝えたり、発言、言い回し以外にもシグナルが発せられることがあります。

時間があって、さらに為替介入の分析実務まで興味があるという方は、こちらの記事も参考にしてください。




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