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在英銀行/HFのガバナンス規則(ICAAP 、ILAAP 、RRP)

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英国では健全性監督機構(PRA)の指針のもと、銀行のガバナンスが強化されている。金融危機を経て監督当局が懸念のある領域に素早く対応するべきとのインセンティブが生じたからだ。かかる中、銀行で不適切行為や健全性に関わる不手際があった場合には立証責任が生じ、関与した経営陣、銀行員が不正行為の刑法上の罪を負う仕組み(上級管理者制度/Senior Managers Regime: SMR)ができた。銀行のガバナンス体制は一層、重要性が増している。ICAAP、ILAAP、RRPは、銀行のビジネスモデル、顧客サービス、主要なリスク、およびこれらのリスク管理方法で、各行は現行の規制当局ガイダンスと業界のベストプラクティスに沿って、監督当局へ報告する必要性に接している。報告は定期・随時を問わず、体系的になされなければならなくなり、且つ経営陣が把握していなければならないとのロジックである。各行では、この管理報告業務を担う新たな部門を新説する等、対応に迫られている。 さらに英金融庁(Financial Conduct Authority)は 新規則IFPRを2022年1月から施行 することを発表しており、資本、流動性、報酬、報告、情報開示などのルールが大幅に変更される。特に大きな変更は、金融機関の自己資本を測定する新しい方法である 「内部資本・リスク評価(ICARA)」に置き換えられる ことと、ヘッジファンドをはじめとするオルタナティブ・アセット・マネジメント・ファーム等、あらゆる投資会社がICARAを含むIFPRの下で独自のプルデンシャル規制(Investment Firms Prudential Regime)を受けることとなったことである。 本欄ではICAAP( Internal Capital Adequacy Assessment Process/自己資本充実度評価プロセス)、ILAAP(Internal Liquidity Adequacy Assessment Process/流動性充実度評価プロセス)、およびRRP(Recovery Plan/再建・破たん処理計画)の概要を説明し、新規則(内部資本およびリスク評価/Internal Capital and Risk Assessment (ICARA))で留意すべきポイントを(筆者自身の脳内整理とともに)ざっくり解説する。

ターゲット・リデンプション・フォワード(TARF)と欧州規制当局の目

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市場レートよりも有利なレートで取引を約定したい、という願望は市場参加者全員が持っているものであろう。そこで、為替市場において改善されたレートで取引を約定したい場合に使われるオプションストラクチャーの中でも有名なTARFを紹介し、その上で、欧州で形成されるTARF批判をざっくり解説する。 ターゲット・リデンプション・フォワード(TARF) TARFは、ストラクチャー保有者が複数の行使日(一般的に月次ベース)で、改善されたレートで通貨を購入または売却できるプレミアムゼロのオプション戦略である。この戦略の特徴は、エンハンスメントされたレートでの決済額が目標レベルに達すると自動的に消滅する点にある。また、スポットが特定の方向に動いた場合、保有者は不利なレートで定期的に取引することを余儀なくされる可能性がある。つまり、TARFは、為替リスクを最小限に抑えたい投資家にとって適切なヘッジ手段ではない。 仕組みとしては、同じ権利行使価格のコールのストリップを買い、プットのストリップを売る(またはその逆)ことによりストラクチャリングされる(レバレッジあり)。また、決済総額が目標レベル(キャップ)を超えると、ストラクチャーが自動終了(リデンプション)するという要件によって制限される。これにより、投資家はパーティシペーション・フォワードよりも優れたヘッジレートを得ることができる。 決済は、ストラクチャーの満期時まで積み上げて(アキュムレート)デリバリーすることも、各レグ毎にデリバリーすることも可能である。なお、アキュムレート型でターゲット・リデンプションがない場合の戦略をアキュムレーティング・ブースト・フォワード(ABF)と呼ぶ。 より堅実に為替リスクをヘッジしたいと考えている投資家は、バニラタイプかシンセティック・フォワードのようなストラクチャーを選ぶべきであるが、予算通りのレートでヘッジできなかったり、諸事情によって、どうしてもエンハンスメントしたレートで取引を約定する必要性に迫られる場合、TARFのようなプロダクト(起死回生の博打?)を締結することによって、リスクをとりつつ約定レートを改善することができる。つまり、それほど追い込まれないと手を出さない、最後の手段ともいえる。当然、リスクを取らず改善レートを取得できるなど、うまい話などない。悪しからず。 欧州で形成されるアンチTARF

銀行の流動性規制(LCR, NSFR)を整理

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銀行業界では金融危機リスクを軽減するために、LCR(Liquidity Coverage Ratio)とNSFR(Net Stable Funding Ratio)が創設され、それぞれ2013年1月と2014年10月に承認されたバーゼルIII協定の一部となった。両比率は補完的に機能している。LCRの目的は、銀行の流動性リスクプロファイルの短期的な回復力を促進することであり、NSFRの目的は、より長い時間軸での資金調達リスクを低減することである。欧州でも2021年6月からNSFRがCRR2の枠組みで域内完全適用となった( Liquidity risk | European Banking Authority (europa.eu )。また、国際統一基準行では、2015年3月31日(英国では2015年10月1日)からLCRが、2021年9月30日からはNSFRが適用(英国では2022年1月)されている。本欄では銀行トレジャリー業務に必須となる2つのレシオについて(筆者自身の脳内整理とともに)解説する。 ポイント LCRは分子が資産、NSFRは分母が資産 MT(短期のファンディング、長期の貸付)の是正 LCR(Liquidity Coverage Ratio) 銀行の流動性リスクプロファイルを測定するもので、銀行は、価値を全く、あるいはほとんど失うことなく、金融市場で容易かつ即座に換金可能な、高クオリティ流動資産を十分に保有すべきとされる。このカテゴリーには、例えば、中央銀行の当座預金、企業の約束手形などが含まれる。その目的は、30日間の金融ストレスシナリオにおいて、金融機関が必要とする流動性を確保することにある。 LCRは、銀行が保有する高クオリティ資産を、30日のストレスシナリオにおける推定ネットキャッシュアウトフローで除した割合である。 ネットキャッシュアウトフローは、 予想されるキャッシュアウトフロー総額から予想されるキャッシュインフロー総額(予想される現金キャッシュアウトフロー総額の75%を上限とする) を差し引いたものと定義されている。キャッシュアウトフローは、負債(預金など)およびオフバランスシートのコミットメント(顧客に対するクレジットラインやリクイディティラインなど)の現在の残高に、前述のストレスシナリオにしたがって、それらが流出または引き出されると予想