GDPでは測れない富:平均寿命、治安、健康と機会費用
1. 問題設定:経済大国アメリカと「短い寿命」 アメリカは名目GDPにおいて世界最大の経済規模を有する一方で、平均寿命は他の先進諸国と比べて有意に低い。 近年のデータでは、アメリカの平均寿命はおよそ78年前後にとどまり、 日本や西欧諸国と比べて3〜7年程度短い水準にある。 GDPは国内で生み出された付加価値の総額であり、経済活動の「量」を測る指標である。 しかし、平均寿命のような健康アウトカムや、暴力、薬物依存、過剰な医療費負担による生活の余裕の欠如といった 「質」の側面を直接反映しない。 そのため、アメリカのようにGDPが大きいにもかかわらず、 健康・安全・余暇の面で他国より劣るという状況が生じうる。 本稿は、アメリカ合衆国の平均寿命の停滞・低下、治安悪化、健康問題と、GDPが捉えきれない機会費用の観点から、 「経済大国であっても必ずしも豊かな社会とは言えない」という問題を検討する。 主要な統計は、CDC、KFF、OECD、UNDP、UNODC、WHO、World Prison Brief、IMF、World Bank等の公的データに依拠する。 あわせて、日本・英国・フランス・ドイツ・中国との比較を行い、 GDP以外の指標が示す「豊かさの差」を多角的に可視化したい。 2. データで見る平均寿命と「豊かさ」指標のギャップ 2.1 平均寿命の概観 表1 主要国の平均寿命(出生時) 国・地域 平均寿命(歳) データ年 コメント 日本 84.7 2023年 世界でも最長クラスの寿命水準。 フランス 83.3 2023年 西欧の中でも高い水準。 英国 81.3 2023年 ...