大口信用規制整理 ~Large Exposure / 破綻の連鎖が教えた教訓~
なぜ大口信用規制を理解すべきなのか 破綻の連鎖が教えた教訓 1984年、英国の名門金融機関であるJohnson Matthey Bankers(JMB)が突如破綻しました。原因は単純で、たった2つのカウンターパーティへの急速な与信集中でした。わずか4年で貸出残高は3,400万ポンドから3億900万ポンドへと膨張し、その大半が特定先に偏っていたのです。この「卵を一つのカゴに盛った」状態の結果、単一先の不履行が銀行全体の崩壊につながってしまいました。 これは決して孤立した事例ではありません。1990年代の韓国銀行危機、2001年のFiat自動車グループ危機(イタリアの銀行が大口与信上限により追加融資を拒否せざるを得なかった事例)、そして2008年の世界金融危機などは、いずれも集中リスクの管理失敗という共通点を持っていると考えられます。 欧州が直面した特殊な脆弱性 2008年以降、欧州金融システムは世界でも類を見ない深刻な危機に直面しました。その核心には「銀行・ソブリン悪循環(bank-sovereign doom loop)」と呼ばれる独特のメカニズムがありました。 まず、欧州には次のような構造的特徴があります。 欧州は米国のような市場ベース(market-based)ではなく、銀行中心(bank-based)の金融システムであること 企業や政府の資金調達が銀行に強く依存していること 銀行が自国政府債(ソブリン債)を大量に保有していること この構造のもとで、次のような悪循環が生じました。 2008年金融危機で脆弱化した銀行を政府が救済する その結果、政府の財政が悪化し、ソブリン債の信用リスクが上昇する ソブリン債を大量に保有している銀行の資産が劣化し、銀行の健全性に対する懸念が再燃する 銀行への不安が高まることで、政府保証への不安も増し、さらなる財政圧力がかかる こうした連鎖がなかなか止まらなかったのです。 さらに、欧州の大手銀行は国境を越えて深く結びついていました。ギリシャ、スペイン、イタリアの問題は即座にドイツやフランスの銀行に波及し、ユーロ圏全体が揺れ動きました。あるシステム上重要な金融機関(SIFI)の破綻懸念が、他のSIFIへの連鎖的な不安を生み、金融システム全体を脅かす構図...