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「円安」の尺度は一つではない~用途によって使い分ける~

「為替の影響は測りたい用途によって使う指標をわける、につきる」。 経済学的に言えば、為替には主に「名目(Nominal)」「PPP」「REER」という3つの異なる顔がある。 これらを混同することが、議論を混乱させる最大の原因だ。ここでは、それぞれの「顔」を整理したい。 まず最初の整理:3つの顔の違い 指標 何を測るか 具体例 動く主因 見るべき場面 名目レート その日の交換比率(資産価格としての為替) 海外旅行の決済、iPhoneなど輸入品の値段、ドル建て投資の損益 金利差、リスク選好、投機、短期資金フロー 「いま外でいくら払うか」を知りたい時 PPP 物価水準の差をならした実質的な購買力 日本の生活水準が他国に比べてどうか、長期の豊かさ比較 物価(インフレ率)の相対差、非貿易財の価格 生活の豊かさ、長期的な力関係を語る時 REER 貿易相手国も含めた実質的な価格競争力 輸出企業の「割安さ」「高すぎ/安すぎ」、産業の国際競争力 名目レートの変動、相対的なインフレ格差、貿易構造(相手国比率)の変化 輸出入、産業構造、交易条件を分析する時 同じ「円安」でも、どの指標を見ているかで結論がズレる。議論の際は、まず定義を合わせる必要が生じる。 1. 財布の痛みと「名目為替レート」 〜海外旅行・輸入品〜 私たちがニュースで目にする「1ドル=150円」といった数字。これが名目為替レート(Nominal Exchange Rate)である。 海外旅行や輸入取引においては、これが絶対...